19. スタッフ教育

■ スタッフ教育の大切さ

私はこれまで、スタッフで行える仕事はどんどんスタッフに権限委譲し、院長は本当に院長にしかできない、クリニックの経営計画等の経営者としての仕事を行うべきとお話ししてきました。それを行うためには、まずスタッフを育てるという大きな課題をクリアしなければなりません。ある業務の全てを任せるには、その人にそれなりの実力と人間力が必要であることは自明の事実です。
言い換えれば、クリニックが成長するかどうかは、クリニックが求める優れたスタッフの採用と採用したスタッフの教育に掛かっていると言えるでしょう。クリニックを訪れた患者さんの行動を考えてみてください。患者さんはクリニックにいる多くの時間を待合室、検査室、処置室という診察室以外で過ごされます。クリニックが提供する診療技術ばかりでなく、診察室以外に居るスタッフの対応の善し悪しで、「このクリニックを次も受診したい」のか「もう絶対来たくない」かが決まってしまうのです。
そこでここでは、私が開業してからの経験を通して、スタッフ教育について考えていることをお話します。

スタッフ教育の大切さ

■ 心のあり方教育

業務のノウハウ・テクニックを教育することもスタッフ教育の一つでしょう。
しかし私は、もっと基本的なことである、心のあり方教育が最も大切だと考えます。例えば、電話の応対や来院した患者さんへのお辞儀の仕方・目線などの研修をしても、そこに心がこもっていなければ、患者さんに好印象を持っていただくことができないでしょう。
スタッフの心の温かみが伝わらなければ、言葉遣いや態度がいくら丁寧でも成果には繋がりません。私のクリニックでは、接客時の対応を元ホテルマンや元キャビンアテンダントといったいわゆる接客のプロにお教えて頂いていますが。心のあり方として、クリニックの先輩スタッフを講師とした院内研修が最も重要かつ有効な研修と位置付けています。
この心のあり方研修は、その成果に即効性を求める研修ではありません。ゆっくりでも確実にスタッフの成長を促すことを目指しています。多少時間がかかっても、この研修を続けることでスタッフが主体的で自律的な人間として育ってくれること。またそれぞれのポジションにおいて、リーダーの指示を待つことなく、心を込めて明るく、私が求めるよう働いてくれることを確信します。

心のあり方教育

■ 研修は興味を示し楽しんでこそ

私がこういう考えを持つようになったのは、ここに至るまでに失敗も経験したからです。
開業間もない頃、私は良かれと思ってスタッフに研修を強制したことがありました。しかし、研修を終え戻ったスタッフが何を得たのかと言えば甚だ疑問で、そこに残ったのはただ研修をやったという事実だけでした。つまり、院長が優れた研修と思って強制的にスタッフに受講させても、スタッフのニーズに合致していなかったり、研修を受けるスタッフがその研修の目的を理解していなければ、成果は得られないということです。研修は受ける本人が興味を示し楽しめなければ実りあるものにはならないのです。

そこで私のクリニックでは、若い女性なら誰でも大好きなディズニーリゾートを研修旅行の行き先にしました。ディズニーランドで研修?とお思いでしょうが、東京ディズニーランドには、ディズニーアカデミーという接遇について学べる研修コースがあります。この研修では、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーで働くすべてのキャストが見に付ける内容を学ぶことができます。ディズニーフィロソフィーやディズニースタッフの行動の基本となる4つの鍵=SCSE(Safety:安全、Courtesy:礼儀、Show:ショー、Efficiency:効果)、実際の掃除の仕方やお客様への応対の仕方などです。
若い女性スタッフに大人気のこの研修では、ディズニーの一流のサービスを学ぶことも大切ですが、ここで見聞きしたことをクリニックでどう活かすかを、スタッフ一人ひとりにじっくり考えてもらうことが重要です。ですから、研修の後には必ずミーティングを行って考えを話し合い、一人ひとりが自分の中にその学び落とし込むようにしています。

研修は興味を示し楽しんでこそ

■ スタッフ主導のイベント

このように優れたものに接し、それを受け止めることも重要です。加えて、スタッフの実力を向上させ人間力をアップさせるためには、スタッフ主導のイベントを開催することも効果的です。イベントと言っても何も大規模なことをするわけではなく、例えば、桜まつりやハロウィーン、夏祭りなど、クリニック内でできる範囲で十分です。スタッフがイベントを主体的に開催することで、各自に責任感が芽生えます。また、クリニックの中での自分の居場所を見つけたり、他のスタッフとの仲間意識が強くなることが、ひいては仕事に対するモチベーションアップに繋がっています。このイベント実施には副産物もあります。患者さんが喜んでくださったり、クリニックの広報にも繋がりますから、一石二鳥にも一石三鳥にもなります。

スタッフ主導のイベント

■ 目標設定会 (目標発表会)

また、スタッフ教育の中には私のクリニックの特徴であり、私自身は特に力を入れている「目標設定会」があります。通常、人間は自発的に目標を設定することはなかなかしないと感じます。そこで梅華会では、年始めに「目標設定会」を開いて、スタッフ一人ひとりに目標を設定してもらっています。目標はどんなに小さくてもいいから一人4つ設定してもらい、それらをリーダーのサポートを受けながら1年かけて達成してもらいます。その目標はあまりに簡単すぎるとすぐ達成できて十分な達成感が味わえませんし、あまりに難しすぎると途中で気持ちが萎えてしまって努力が続きません。従って、1年がかりで達成できるかできないか、ちょっと背伸びをしたあたりの目標を設定するよう導いています。
他にも、スタッフの成長のために院内勉強会や院内ライブラリーなどの取り組みも行っています。将来的には院内大学とでもいえるような環境を整え、院内で育成した講師による内部研修制度を作り上げるのが私の目指すところです。

なすべき仕事

⇒次回は「20.クリニックの理念」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

開業医コミュニティM.A.Fではクリニック経営についての情報発信、セミナー開催など行っております。最新のM.A.Fからの情報を得るために無料のメールマガジンにご登録ください。