■ まず理解に徹し、そして理解される
人生の成功のための5つ目の習慣、それは「まず理解に徹し、そして理解される」です。組織のトップに立つとき、大抵人は自分の考えや意見を部下などの相手に理解してもらうことに力を注ぎます。しかし、これがなかなか難しいのです。コヴィー博士は相手からの理解を得るためには、まず、自分が相手を理解することから始めることが重要だと言っています。
自分自身を振り返っても感じることですが、ドクターというのは、つい先に理解を得ようとする傾向があるのではないでしょうか。また、ややもすると、自分の考えが正しく、相手の思考と一致していると考えがちです。七つの習慣で言われている「相手を理解してから理解されること」の本質は、相手が自分に対して求めているものを理解してから、自分の考えや答えを理解してもらうように物事を進めていくということだと考えます。
よく、男性は「解決脳、女性は共感脳」と言われますが、私には、スタッフから困っていると相談を受け、即私がその解決策を考え手当てをしたことで、かえって事態が悪化したという経験があります。相談を受けた時、「なぜその相談をしたのか?」という相手の気持ちの奥を理解することが足りなかったからだと、最近では分かってきました。実はその時、私に相談した彼女は、私が「大変だね。でも頑張って」と共感し、彼女を認めることを望んでいたのであって、決して問題を解決するために私に行動してほしかった訳ではなかったのだと、今ならば理解できます。現在はスタッフの面談・指導を現場のリーダーに任せていますが、女性のリーダーは私より共感脳をもって傾聴することに長けているので、むしろ安心して任せています。とはいえ、私自身も、スタッフや家族に対してまず話を聞くということを心がけ実践しています。ただ、どれほど傾聴を心がけても、心を閉じている相手を理解することはできません。心を開いてもらうためには、まずは自分の方から心を開くことが重要だと思っています。院長だから、理事長だから、一家の主だからと上段に構えることなく、弱みや格好悪い姿も自然に見せられるようにしたいと思っています。
■ クリニック発展は1人ひとりの患者さんの理解から
また、患者さんに関して言えば、昨今は治療方針一つとっても患者さんのニーズは様々だと感じます。
ある患者さんはとにかく薬を処方して欲しいと言いますし、ある患者さんはできるだけ薬を使わずに処置をして欲しいと言います。また、同じ薬でも漢方薬を出して欲しいという患者さんもいます。甚だしくは、「心配ないですよ、このまま2~3日経てば治りますよ」と医師から太鼓判を押して欲しいだけかもしれません。診察においてドクターが患者さん1人ひとりの気持ちをどれだけ理解できるかが、クリニック発展のためのカギだと思うのです。
医師が患者さんを理解するからこそ、こちらが提案する治療内容に対して患者さんの理解が得られ、自分やクリニックの信頼につながるのです。そのためには傾聴が大事と言えるのですが、実際のところ、大勢の患者さんの相手をする日々において、一人の患者さんに充てられる時間には限りがあります。傾聴の必要性は感じながらも、なかなかうまくいかないのが現実ではないでしょうか。
私が以前、札幌で勤務医をしていた時のことです。
その病院の耳鼻咽喉科には様々な症状を訴える患者さんがいらっしゃいましたが、その中で最も診療に時間がかかるのが「めまい」の患者さんです。現在の症状やここに至る経過などを問診していると、患者さんはめまいに対する不安といった心の問題や、めまいに伴う吐気や、冷や汗、動悸など、いわゆる不定愁訴といわれる多くの訴えを話してくださいます。
私たち医師は、めまい症状のこれまでの経緯と検査などから、現在の病状や今後の経過、投薬によって今後どのように快方に向かうのかを大まかに予想できます。しかし患者さんにとっては初めての経験で、話を聞くドクターとも初対面である訳ですから、どうしても診療時間が長くなってしまいます。当時の私は、どうにか一人にかかる診療時間を短くしようと患者さんの訴えを熱心に聞かなかったり、途中で相手の話を遮ったりしていたように思います。
それに対して、当時の私の師であった先生は、めまいの患者さんを大勢診療しているにも関わらず診療時間が私より短かったのです。私は、どうして大勢の患者さんをさばけるのかをその先生に尋ねました。成功のモデリングをしようとしたのです。すると、先生からは意外な回答が返ってきました。重要なのは、1回目の診療の時にどれだけ時間をかけて患者さんの話を傾聴できるかだというのです。初診時には、患者さんに自分の訴えを主治医にしっかり理解してもらえたと感じてもらうことが重要だとおっしゃいました。1回目にしっかりとした信頼関係が築ければ、2回目からはあっという間に診療が終わるというのです。
実際、その先生の診療を観察すると、初診の患者さんには充分に長い時間を割いて診察に当たり、再診の患者さんの診察はアッという間に終わっていました。「調子はいいかい?じゃ、またお薬出しておくわ」その程度で診察は終わり、ニコニコと診察室を出ていく患者さんを何度も見ました。
コヴィー博士の言う「まず理解に徹し、そして理解される」とは、正にこのようなことなのではないでしょうか。
■ マニュアルを超越する対応を
梅華会では、私や各分院の院長ばかりでなく、全スタッフの患者さんへの対応にも、マニュアルを超越するクオリティを求めています。
最低限の対応マニュアルを作り、それ以上のことは自分で考えて対応する仕組みを採っているのです。それは患者さんの不安や悩み、ニーズを十分理解して個々に合った対応をして欲しいからです。お陰様で、患者さんからのアンケートでは、スタッフの接遇や笑顔に高い評価をいただいています。
さて、ここまでスタッフや患者さんに対する第5の習慣をお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。私はこれからも、取引業者さんや地域の方々、私や私の法人を支えてくださるすべての方々に対して、「まず理解に徹し、そして理解される」習慣を身に付けて行けるよう、努力していこうと思っています。
⇒次回は「54.セミナーで学んだことを実践する『七つの習慣セミナー』⑦」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものですので、現在は取り組んでいない運営方法・研修・教育方法などもござます。
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