20. クリニックの理念

■ 開業の理念・目的

私は開業を志した時、経営に関する様々な本を読んだり、既に開業された先輩ドクターの話を伺ったりしました。そうして、開業を成功させるために重要なことは「なぜ自分がクリニックを開業するか」や「どのようなクリニックにしていきたいのか」という目的や理念を明確にすることだと理解しました。しかし、恥ずかしいことですが、その時はいくら考えても「これだ!」というはっきりとした理念を持つことはできませんでした。

現在開業をしようとしている皆さんの中にも、通常勤務をこなしながらクリニック開業のための準備に追われ、自分のクリニックの開業の目的・クリニックの理念をしっかりと考え、自分の中に落とし込む作業が後回しになっていらっしゃる方も少なからずいらっしゃるのはないでしょうか。

■ 組織理念の浸透

そんな方に是非読んでほしい書籍の一つに、ジム・コリンズが著した『ビジョナリー・カンパニー』があります。この本の中でコリンズは、他を圧倒的にリードし成功している企業と、売り上げがマイナスではないけれど程々である企業とを、様々な角度から比較し、成果の差にはどのような要因が関係しているのかを調べています。そして、卓越した企業とそうでない企業との差は、その企業の理念が企業で働く人々一人ひとりにどれだけ浸透しているかどうかだと結論付けています。
現在の日本では、大きな企業であればほとんどの企業が立派な企業理念を掲げているのが通常です。しかし、大切なのはその理念がどれだけ素晴らしく、どれだけ崇高であるのかではありません。その理念が企業の経営陣やトップのみならず、社員一人ひとりに浸透し、社員一人ひとりがそれに基づいて行動できているかどうかです。
この本に出会った当時の私は、自分が求めている理想のクリニック像やあるいは大事にしたい価値観について想いを巡らせ、その想いを共有できるスタッフを得るにはどうしたらよいか、思い悩みました。それについて『ビジョナリー・カンパニー』では、バスに乗せるのは誰か?が大事なことだと言っています。自分=法人のバスが思い描く行先に向かうためには、つまり、法人のミッションを叶えるためには、誰をバスに乗せるのかが重要だと言っているのです。
クリニックにとって良き人材、より組織にフィットした人材を採用するためには、法人の理念・価値観を面接の際に伝え、有能な人物に巡り合ったとしても、ベクトルの方向を合わせることが難しそうな場合は遠慮いただいた方が良いということです。いかに経験豊富で優秀なスタッフを採用したとしても、目指すベクトルの方向が異なると、クリニックにとっても、あるいは働いている本人にとっても不幸な結果が待っていると思うのです。

組織理念の浸透

■ 梅華会の理念

梅華会の理念の一つに「笑顔で楽しみながら働く」というものがあります。
私が病院の勤務医だった一時期、仕事が楽しくないことがありました。今考えれば自分自身が未熟だったから楽しくなかったということもありますが、本来、楽しくなくてはよい仕事はできないと考えます。楽しく働けているから、もっと良くしよう、もっと改善しよう、もっとスキルを身につけよう……と前向きになれるのです。そして楽しみながら働くには、クリニックの理念・価値観を共有できる人物でなくては難しいと考えます。
また、職員個々が夢を持ち、常に自己の改善に努める」という理念もあります。
私は夢という言葉が大好きです。
子ども時代だけでなく、大人になっても夢を持ち、その夢に向かって行動する時のワクワク・ドキドキ感を大事にし、仕事もプライベートも情熱溢れる人生を過ごしたいと思っています。ですから、法人のスタッフにも、人生に夢を持ち、夢の実現のために今日より明日、明日より明後日と、常に少しずつでも前進してほしいのです。その願いからこの理念を掲げました。大人になると、とかく周囲の環境の変化に対して拒否や拒絶をしがちです。すでに確立されたシステムや仕組みをどこか変えようとする場合、恐れや不安を感じることが普通です。しかし、常に「自己の改善に努めるという法人の理念にコミットしている梅華会のスタッフは、「一度やってみよう」「やってみてダメだったら元に戻せばいい」と考え、より効率的、より安全に、より患者さんに満足いただけるよう努力してくれています。
次に、私が苦労の末に思い描いた梅華会の基本理念をご紹介してこの回を終了します。

☆梅華会基本理念☆
1. 社会へ貢献する名誉ある役割を担い、責任を果たす
2. 感謝し感謝される心を持つ
3. 笑顔で楽しみながら働く
4. 礼儀正しく誠実に徹する
5. 職員個々が夢を持ち、常に自己の改善に努める

梅華会の理念

⇒次回は「21.読書の勧め」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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