皆さんは開業後、トップとスタッフとの意思疎通や業務の効率化を図るためにミーティングを行い、改善策を出し合うことで、新たな取り組みを決めていますか。
何か問題や課題が見つかった場合は、どのクリニックでも、この取り組みを実施しているのではないでしょうか。しかし、ミーティングで出した改善策や取り組みが、本当に有効だったかどうかを検証し、再度改善しようとしているクリニックは、意外と少ないのではないでしょうか。
■ PDCAサイクル理論とは?
組織運営に関する書籍などを見ると、業務の進め方の理想的な方法として
「基本はPDCAサイクルを回す」と書かれているのを目にすることがあると思います。しかし、その書籍を読んで、PDCAサイクル理論の良さを理解できてもPDCAサイクルを回すとは、具体的に「いつ・何を・どうすればいいのか」、クリニック運営の中でどのようにPDCAサイクルを回すのか、はっきりとしないのではないでしょうか。
PDCAサイクルとは、もともと工業製品の品質管理を円滑に進めるための手法として、アメリカのW・エドワーズ・デミング博士らが提唱した考え方と言われています。但し、PDCAという言葉自体の起源については以下の諸説あります。
・1950年、デミング博士が来日した際の講演会で紹介されたという説
・デミング博士が提唱する、
「工業製品の生産に関する設計→製造→販売→調査」というコンセプトを元に、日本における品質管理の先駆的指導者であった石川馨博士が表したという説
そもそもPDCAとは、以下の4つの頭文字を取ったものです。
- ◆Plan:計画を立てる
- ◆Do:実行する
- ◆Check:評価する
- ◆Action:改善する
ある業務についてP→D→C→Aと回し、A(Action:改善する)まで達成できたら、再び次のP(Plan:計画を立てる)に進むというサイクルを、1周ごとに各段階のレベルを向上させながら、螺旋を描くように回し継続的に業務を改善することが大切ということを表しています。
その後、PDCAサイクルは、工場などの製造生産の現場だけではなく、サービス業など、非製造業も含めたさまざまな業務での管理手法として使われるようになりました。デミング博士は、後に「PDCA」から「PDSA(Plan→Do→Study→Act)」と発展させ、学習の重要性を強調したとも言われています。
■ 日本でのPDCA理論の導入
1990年代後半頃から、日本で組織管理や仕事管理、スキルアップにPDCAサイクルが使われるようになりました。当時は、PDCAサイクルを社員に教えてもなかなか定着しないと悩む企業が多かったそうです。
その原因は、PDCAサイクルが作られた1900年代と比べて、工業生産と組織管理の内容が大きく変化しているからだと考えています。また、「Plan:計画を立てる、Do:実行する、Check:評価する、Action:改善する」という言葉の中に、とても多くの意味や内容を詰め込んだためと考えています。
これは自身の反省も含まれていますが、「計画を立てて、実行して終わり」と、評価・改善せずに業務を完結させるケースがとても多いと感じています。
■ PDCAサイクルをクリニックで回すには?
PDCAサイクルの理論に従って、クリニック運営の改革をしようと思った場合、皆さんはどうしますか?恐らく、「PDCAサイクルを回すことが大切」とスタッフに伝え、スタッフには次のような変化を求めているのではないかと思います。
1.「言われたことだけをやる」のではなく、もう一歩進んで自発的に何をすればいいか考えてもらう。
2.「目先の作業や自分の仕事をする」だけにとどまらず、患者さんや院長、取引業者さんなどの立場に立って何をすべきかを考えて行動してもらう。
これらをどのように実行するかスタッフに伝えようとすると、「Plan」「Check」といった言葉ではなかなか伝わりません。説明を受けた方も、自分の仕事にどのようにPDCAサイクルを取り込めば良いのか、具体的にはイメージが湧きません。スタッフにPDCAサイクルの概要を伝え、理解させることは可能です。ただし、現実的には、「今日中に終わる仕事でもPlanは必要なのか」、「今は忙しくてCheckする時間がない」など、本来のPDCAサイクルを回すことから外れた疑問や抵抗が積み重なり、PDCAサイクルは形骸化してしまうケースが多いように感じます。
そこで私は、PDCAサイクルという理論を意識するのは、院長や幹部など、組織のリーダーだけに留めることを提案します。計画して実行する場合、いつ評価をするのか前もって決め、「半年後、成果と必要に応じて改善策を考えてもらう」と伝えれば良いと考えます。院長である自分の仕事も含めて、すべての業務・取り組みを定期的に見直すことが重要です。
■ 組織診断の実施
私のクリニックでは、さらに良い職場環境を作るために、PDCAサイクル評価の一環として、組織診断を毎年1回行っています。組織診断は、より良い職場環境にするために実施しています。スタッフに対してアンケート形式で質問を投げかけ、それに対する回答から、院長はどのような行動を取れば良いのか、あるいは何を改善すれば良いのかの一つの指針としています。
例えば、院長である私が、スタッフに対してさらに教育環境を提供したいと思っていたとしても、スタッフの多くが現状で精一杯、これ以上の学習は無理と思っていたとします。
この場合は、私の舵取りの方向を変える必要があります。スタッフにこれ以上学習の機会を与えても効率は上がらないでしょうし、過剰な学習の提供は逆効果です。このような場合は、教育は行わないという方法以外に、さらなる教育環境充実の必要性や、教育を受けることによって得られるメリットなどをスタッフが理解するまで伝え、上質な教育環境に対するニーズが生まれて来るのを待つ方法があります。
また、スタッフが重要だと感じているにも関わらず、満たされていないと感じている業務・取り組みが見つかった場合は、どうしたら満足できるようになるのかについて、全体ミーティングを行います。スタッフの意見から、問題の本質を見つけて改善を図ります。これが Action です。
組織診断は、私の業務に対するPDCAですが、参考になりましたでしょうか?
PDCAサイクルを回すには、そのサイクルをスタッフに教育するだけでは事足りません。クリニック内のすべての業務に関して、定期的に見直し、改善を促すことで、必然的にPDCAサイクルが回るようになります。
⇒次回は「36.スタッフ採用はクリニック運営の肝」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものです。
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