36. スタッフ採用はクリニック運営の肝

■ スタッフに継続して勤務してもらうには?

開業した頃の私は、スタッフ採用がクリニック運営の重要なカギであると認識していなかったため、採用するスタッフの人柄や背景をあまり重要視していませんでした。
当時の私は、看護師、医療事務としての業務スキルのみを求めていたため、就職希望者の履歴書に書かれている、過去の勤務歴や業務に関する経験などばかりに目を奪われていました。その結果、私がスタッフに求める理想と、スタッフが持っているスキルがマッチしないということが起こりました。せっかく採用したものの、私とスタッフの関係がギクシャクし、やがて退職してしまうというケースが多々見られるようになりました。
患者さんにとって、クリニックで働くスタッフが頻繁に替わり、常に不慣れで円滑でない対応をされることは、そのクリニックを信頼できないということに繋がります。

患者さんに再来していただき、かかりつけ医に選ばれるには、採用したスタッフに継続して勤務してもらうことが喫緊の課題となりました。
「なぜスタッフが定着しないか?」そのことをじっくり考えた結果、私が理想とするクリニックと、スタッフが理想とするクリニックが合致する必要があるという結論を得ました。業務に対する対価としての給与や有給休暇などの待遇がいくら折り合っていても、継続して勤務してもらえないのでは意味がありません。継続して勤務してもらうために、入職してくれるスタッフが、私が提供したい医療の理念をどれくらい理解し、共感・共有してくれるかが重要なのです。

スタッフに継続して勤務してもらうには?

■ スタッフの採用方針

スタッフを採用するために行動した内容は、以下の通りです。

  • ・スタッフの採用方針を転換
  • ・「どういう人材が欲しいのか」を募集要項に明確に記載

具体的な業務内容を記載するのは当然ですが、
「誰に対しても優しく接することができるか?」「素直に人の意見を聞くことができるか?」「常に向上心を持っていられるか?」など、私のクリニックで求めている人物像を、事細かに記載しました。
言葉にするとどれも当たり前のことですが、自信を持ってこれらのことを公言できる人材は、本当に限られていると感じています。
また、募集する職種によって求める内容が異なりますので、ホームページにある採用サイトは、職種に応じて複数作るよう変更しました。

具体的には、
・医師
・看護師
・医療スタッフ
・経営企画
・コペルスタッフ

の5部門に分けています。また、実際に私のクリニックで働いているスタッフの日常も分かるように、スタッフブログもリンクさせています。
採用サイトで募集する人物像を事細かに記載し、日常の業務を示すのは、この段階で応募してくれる人物をふるいに掛けるためです。「ここに書かれていることを私に求められているとしたら、このクリニックは合わないな」と思われることで、お互いに時間の無駄が無くなると思いました。

スタッフの採用方針

■ 1に新卒採用

スタッフ採用のもう1つの問題は、新卒採用です。
開業当初は、スタッフ教育まで手が回らないため、即戦力となる経験者で且つ、社会人としての接し方も身に着けている人材を採用することになります。私が開業当初に採用した全員がパートのスタッフで、ほとんどの方が子育てを一段落していました。しかし、「1に新卒採用、2に人事異動、3に研修教育」というリクルート流人材活用術を見て、新卒採用の重要さに目が覚める思いでした。一方で、「大学を出て間もないスタッフを、私が一人前の社会人として育てることができるのか?」「採用したスタッフにとって最初の職場であるため、スタッフの今後の人生に影響を与えると思うが、私のクリニックが指導の重責を担っていいのか?」と、おおいに悩みました。

開業して3年目の頃、私は思い切って新卒採用に踏み切りました。その当時のパートスタッフは、おそらく心の中では、「教える手間が余計にかかる」と思っていたかもしれません。しかし、パートスタッフは新人教育を快く引き受けました。先輩スタッフに導かれて、新卒スタッフはどんどん成長していきました。その姿を見て、私は本当に嬉しく、思い切って新卒採用に踏み切ってよかったと思いましたが、それ以上に、先輩スタッフの成長が加速したことに驚きました。リクルート流人材活用術の「1に新卒採用、2に人事異動、3に研修教育」の意味が身に染みた瞬間でした。

新卒採用

新卒スタッフに対する教育は、「自分には当たり前にできていることを、どのように伝えるのか」「どのように仕組み化して教えるのか」を、もう一度ゼロから考え直さなければなりません。エドガーデールの学習の法則※のように、教えるという行動で私たちが得られるベネフィットは断然多くなります。また、まだ何の色にも染まっていない新卒スタッフに対して、クリニック運営の肝でもあるクリニックの理念を教育することは、中途採用者に教育するより容易です。
新卒スタッフは技術教育に時間がかかり、すぐに現場で戦力として働いてくれるわけではありません。しかし、先輩や後輩と共有する時間も、人を成長させるよいきっかけとなると感じています。また、新卒スタッフが成長して、翌年に入ってくる新卒スタッフを指導している姿を見ていると、人を育てることも院長としてのひとつの社会貢献だと感じます。

※エドガーデールの学習の法則
受動的な学習では、頑張っても半分くらいしか頭に入らない。
(読むだけだと10パーセント、聞くだけなら20パーセント、見るだけなら30パーセントしか記憶に残らない。見て聞いて、やっと50パーセントが記憶に残る。)一方で、言う・書くなどのアウトプットをすると70パーセントが記憶に残り、人に教えると、90パーセントが記憶に残るということ。

⇒次回は「37.クリニックに相応しいスタッフになってもらうために①」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものです。

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