22.女性スタッフとのコミュニケーション

■ コミュニケーションはクリニック運営の鍵

開業してから本当に大変なことの一つに、スタッフ、特に女性スタッフとの信頼関係をいかに築くかがあります。
そしてそれ以前に、女性スタッフとどうやったらうまくコミュニケーションがとれるかということが挙げられます。多かれ少なかれほとんどの開業医が、スタッフが自分の思い通りに動いてくれない、スタッフがすぐ辞めてしまう…といった事態に頭を痛め、時間を取られています。
開業医同士の集まりでも、必ずと言っていいほど話にのぼる話題です。そして、クリニック運営がうまくいくかいかないかも、スタッフに気持ち良く働いてもらえるかどうかだと言っても過言ではありません。
大病院の看護師なら一定基準の技術を持ち、先輩看護師からその部署ならではの指導も受けているので、決まったルールに則って動けるのが普通です。だからと言って、看護師ならこの程度のことは黙っていてもやってくれると思うのは大間違い。初めは一つひとつの細かい作業までそのやり方と方針を丁寧に指導する必要があります。医療機器の洗浄といった基本的な作業でも、自分の思い通りにできなくて当たり前ということをまず頭に入れておく必要があるでしょう。スタッフの教育については後の回に回すことにして、ここではどうやったらスタッフとうまくコミュニケーションが取れて、さらに信頼関係を築けるようになるかお話したいと思います。

コミュニケーションはクリニック運営の鍵

■ 男性と女性の思考の違い

まず、大前提として、男性と女性の思考の違いについてお話したいと思います。私もこの話を初めて聞いたときはにわかには信じられませんでしたが、院長となって8年、今では実際にそうだと確信しています。
で、その内容はどうのなのかと言いますと、一言で言えば、男性脳は解決脳、女性脳は共感脳だということです。皆さんが女性スタッフからある悩みについて相談を受けた場合を考えてみましょう。私は「それについてはこうすると解決するのではないか」とか「それについてこういう考え方をすれば問題なくなるのではないか」とその悩みについての解決策を考え、相手に伝えるのが通常だと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?ここでは主に男性ドクターを対象にお話ししていますが、仕事モードの女性ドクターも同じかな…と思います。
しかし、共感脳で物事を考えている多くの女性スタッフの場合、ただただ話を聞いてほしいだけであって、なにも院長に解決を求めているわけではないことが多いのです。「そうなんだ。大変だけど頑張ろう」と共感し、なぐさめるだけで良かったのです。男女による思考の差を知らないと、スタッフからのただ共感を得たいがために発したSOSに対して、解決策を提示する、甚だしくは院長自らが解決してしまうということになりかねません。そしてその結果、自分とスタッフ、スタッフとスタッフの関係性にまでヒビが入ってしまい、「もう院長には絶対相談しない」と距離を置かれる事態になることや、最悪の場合、スタッフが辞めてしまうことにさえなりかねません。
近頃よく聞く言葉に「傾聴」という言葉があります。じっくり聞くという作業は本当に忍耐の要る仕事です。しかしスタッフから相談を受ける際は、沈黙することをいとわず、傾聴する姿勢を取り続けることが肝心です。相手の話をしっかり聞くには、2対8くらいの割合で相手に多く語ってもらうのがちょうど良いと言われています。女性スタッフに「院長の共感を得られた」と思ってもらうには、2対8くらいの割合で相手の話に耳を傾ける、つまり傾聴に徹するのが大事なのです。

男性と女性の思考の違い

■ 面談の効果

スタッフとのコミュニケーションを円滑にするためには、相談を受け相手の想いに共感することも大切なのですが、定期的に1対1で面談する時間を設けることも必要だと思います。日常業務で十分会話していれば、改めてそういう場を設けなくてもよいという話も聞きますが、私の経験ではたとえ30分でも話を聞きましょうという場を設けると、日常とは驚くくらい違う話が出てくることがあります。
私の例です。医療関係の仕事を志し、私のクリニックの理念も共有し、毎日ニコニコと楽しそうに働き、患者さんの評判もとても良かった新卒採用のスタッフとの面談でのことです。私はてっきり、順調に私のクリニックに馴染んでくれ、本人も満足して働いていると思っていたのですが、そのスタッフの口から出た言葉は「どうも今の仕事は自分には向いていないと感じている」「もっとやってみたい仕事が見つかった」というものでした。ドンドン成長してこれから梅華会の重要なスタッフとして育ってくれるものと思っていたので、にわかには信じられず唖然としました。しかし早めにその情報を得ることができたので、次の手を打つことができました。また、私としては正当と思える判断基準で支給したボーナスの差に不満を感じているスタッフがいることが分かったこともあります。日常の会話においても、一見何の垣根もなく会話をしているように思えても、スタッフにとって院長は特別な存在であり、同等に会話しているといったことはないようです。
面談を行って思いもよらない告白や言動・考えに触れた時、トップとしてどのように対処し、どのような責任を負い、どのような行動をとるかについても大きな覚悟を持つ必要を強く感じます。その姿勢がスタッフとの信頼関係を築くためのカギになるとも言えるでしょう。

面談の効果

⇒次回は「23.スタッフへの理念教育」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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