8. 開業資金の調達

親の代からのクリニックを引き継ぐという方以外は避けて通れない問題、それは、開業資金の調達です。
クリニックを開業するときは、診療科により差はあるでしょうが、建物以外におおよそ数千万円から1億円が必要となります。つまり、土地を購入して建物も建てるとなれば、さらにその費用もかかるということです。
ドクターは世間一般に比べたら高所得者に該当するでしょうが、取れば取ったなりに使うのが世の常、なかなか高額の貯蓄はできていないのが現状なのではないでしょうか。私の含め周りのドクターを見回してみても、金融機関の融資を受けずに自己資金だけで開業したドクターはほとんどいません。
そこで、この回では、融資に関して私の経験をお話することといたします。

■私が経験した開業資金調達

私は、勤務医をしていた時もいつかは開業すると決めていましたので、少しずつ貯金をしていました。
それまでに貯めた開業のための自己資金は2000万円ほどです。しかし、これでは当然開業できません。そこで、銀行からの融資を受ける必要がありました。
勤務医時代までは、私が銀行へ行くのは預金を引き出すときだけでした。銀行からお金を借りようと思っても、利子はどれくらいかかるのかや、返済期間はどれくらいなのか、いくらくらい貸してもらえるのか、また、どれくらい親身になって相談してくれるのかも見当もつきませんでした。
最初は、先輩の情報を頼りに、日本政策金融公庫、いわゆる国金に行ってみました。国金を選んだ理由は、銀行から融資を受けるには通常は担保が必要ですが、国金は必要ないと聞いたからです。
2008年当時の私は、自宅など担保となる資産はなかったのですが、親から資金の援助を受けたり、親の財産を担保にするといったことを避けたいと強く思っていました。
行ってみてわかったことは、情報どおり国金は担保の必要ありませんでした。しかし保証人が必要でした。保証人を親に頼むことも避けたかったので、結局、国金から融資を受けることを断念しました。

次に選択肢の一つとして考えたのが、当時の三井住友銀行で扱っていた開業医向けのローンパッケージです。
受けた融資は5000万円、担保も保証人も不要でした。当時の金利は2.6%、ただ銀行に言われるままにそれで契約しました。しかし、複数の銀行と取引するようになった今思えば、もっと交渉の余地があったのではないか・・・。と思います。
クリニックをその土地で開業する狙いや今後の展開、地域における貢献度などを自分のクリニックの独自性や今後の事業計画などとともに明確に伝えることで、将来的にも銀行側に取り引きしたいと思ってもらい、金利を低く設定することが可能だったと思われます。

私が経験した開業資金調達

■事業計画の重要性

金融情勢が大きく変わったということもありますが、2016年に小児科と耳鼻咽喉科を併設した4つ目の分院を開院する際に受けた際、融資の金利は0.6%でした。
昨今の金融情勢では交渉次第で0.5%を切るという話も聞きます。現在はマイナス金利といって、銀行は資金を持っているだけで日本銀行に金利を支払わなければならない事態が生じています。つまり、銀行は手元に資金を置いておかないで、金利は低くても回収可能な手堅い貸出先を求めているわけです。

我々ドクターは、銀行側から見れば、仮に開業が失敗しクリニックが潰れたとしても、医師としての働き口はどこにでもあるから、数千万円くらいの返済は十分可能、とりっぱぐれる心配はないと判断するのです。大きな借金さえなければ、たとえ預貯金が4~500万円しかなくても、低金利で銀行から融資を受けることが可能と考えます。
ただし、単に融資を受けたいと銀行に行くだけでは融資を受けることは難しいです。銀行は人柄などで可否を決めるわけではありません。開業後の事業計画を見て判断します。ここでは自分のミッション・ビジョン・バリューは関係ありません。
毎月どれくらいの売り上げが見込めるのかや、その根拠、完済まで何年を見込んでるかなどの計画を審査して、融資額等を提示してきます。つまり、根拠あるしっかりとした事業計画を立てることが重要になってきます。

事業計画の重要性

■融資の最終判断は必ず自身で

また、金利を変動にするか固定にするかという議論は融資を受ける際には常に付きまとう問題です。
個人的にはその時どきの金融情勢を見て判断するとしか申し上げようがありません。昨今は低金利が続いていますから、今の私は固定金利にすることが多いですが、変動金利が絶対に不利というわけでもありません。開業コンサルタントなど、開業時のアドバイザーに相談するのもよいでしょう。
ただし、銀行を決めたり、ローンの商品を決めたり、銀行と交渉する際には、コンサルに任せきりにするのではなく、ご自身も交渉の場に居て、最終判断はご自身が行うべきです。さらに、融資を受ける際には複数の金融機関と面談して、提示された条件を様々な角度から比較検討することも重要です。
私の経験から言えることは、無担保で融資を受けるなら日本政策金融公庫がベスト。
また、メガバンクより地方銀行の方がより柔軟に融資に対応してくれるということです。

⇒次回は「9.広告、宣伝」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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