■真の「成功」とは？
私が深く意識していることの一つに、開業医としての成功だけでなく、一人の夫、一人の父親、一人の息子、そして梅岡比俊という一個人としての成功も同時に果たしたいということがあります。
たとえクリニックがどんなに患者さんで溢れ、スタッフからも信頼され、地域の皆さんからも慕われ、開業医として成功したとしても、朝から晩まで、また十分な休日もなく診療とマネジメントといった仕事に忙殺されていたとしたら、それは、皆さんにとって幸せなことでしょうか？
私は、クリニックの経営が順調であることはもちろん、夫であり、父であり、息子である家庭人としても、また、梅岡比俊個人としても、充実した幸せな毎日を送りたいと願っています。
ですから、開業を決意したときも、開業地を選ぶときも、クリニックの内装を決める時も、まずは妻に相談しました。
開業するということは私にとって人生における一大イベントですが、同時にこのことは家族にとっても大きなイベントです。否が応でも家族の生活は大きな変化を強いられ、大きな嵐に巻き込まれてしまうからです。
知り合いのドクターに、立地条件が良いというだけで開業地を選んだ方がいらっしゃいます。それまでの住まいからだと通勤時間は自動車で有に1時間半はかかるので、クリニックの近くに仮住まいし、ほぼ単身赴任で診療に当たっておられると聞きました。そのドクターの選択なのですから、私がどうこう言うべきことではありません。
しかし私は、まず開業ありきではなく、家族生活あっての開業ではないかと思うのです。
■二人三脚で進めた開業準備
実は、私は開業医としての準備がすっかりできてから勤務医を辞めたわけではありません。
まず妻にこれからの方向性をしっかりと伝えて話し合いました。その上で勤めていた病院を辞めました。クリニック経営を成功させるという強い意志を持っていましたし、自分の目指すクリニック像もしっかりと見えていましたので、開業をコンサルタントなどのプロに任せきりにするのではなく、自分でも積極的に動こうと思いました。パート勤務を行いながら開業準備をした方が、自由になる時間を確保できると考えたからです。
ですから、勤務医を辞めた時点では開業地さえ決まっていませんでした。非常勤勤務医としてパート勤務をしながらの1年間、空き時間を見ては妻と一緒にクリニックとして使えそうな物件を探し歩き回りました。物件選びは自分一人で決めようと思えば十分可能でしたが、やはり、妻のコンセンサスが必要と考えたからです。
その場所の街並みを見て、実際に住めるか？将来は生まれる子どもの通学に支障はないか？妻と二人の目で見て判断しました。開業地選びでは、立地条件を見て焦って契約し、結局違約金を支払ってキャンセルしたという失敗もありましたが、すべて妻と一緒に行動していたので、家族としての大きなトラブルにならなかったと思っています。
クリニックはヤドカリのように簡単に移動できるものではありません。ここと決めたらほとんどのドクターが開業医生活をその地で全うすることになるでしょう。とかく、開業コンサルタントの方との打ち合わせにばかり時間を使ってしまいそうですが、開業は家族全員にとっての重大な人生イベントなのですから、その前に家族との対話という準備が絶対に必要なのではないかと思います。
■開業医の成長を促す家族とのコンセンサス
また、家族のコンセンサスが得られることが、起業に対する自分自身のモチベーションアップにも繋がると感じています。
かくいう私も独身時代は、何事もホドホドと考え、自分はこれくらいで、と自分で自分の限界を決めてしまっていたように思います。勤務医の方が気楽でいいと思っていたことさえあります。
ところが、結婚し、子どもができ…というように家族が一人二人と増えていくと、自分自身に変化がありました。「もっと家族のためにできることはないか」、「現在の状況をより良くするためにはどのようにしたらよいか」と常に問い続け、より高い目的や目標を目指すことに繋がったと思っています。例えば、家族との時間をつくるにはどうしたらいいのだろう、と考えていくとスタッフを教育して自分でなくてもできる仕事は権限委譲しようとか、非常勤勤務医を雇うために経営を安定させようとか、行うべきことが見えてきます。そして、それをできるようになるための対策を考えるようになります。すると、そのことがクリニックの発展に繋がる…というような良い循環が生まれてきます。
そして、そのことは私の喜びであると同時に、家族の喜び、幸せにもなります。そのためには、一度家族の了解を得たからこれでOKとするのではなく、普段から家族との会話を通して、その時々の自分の考えや想いを家族に伝え、理解してもらい、共有することが重要であると思います。自分の考えや想いは、少しずつではあっても進化し続けていくのですから……。
⇒次回は「8.開業資金の調達」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。
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