33. 非常勤勤務医を雇うということ

私のこのコラムを読んでくださっているドクターの皆さんは、クリニック経営やドクターのワーク・ライフ・バランスに関心がある志の高い熱い思いの持ち主であると想像します。自身の代わりに代診を立てるということについては抵抗のある方もいらっしゃると思いますが、志の高い皆さんだからこそ、非常勤勤務医に対する私の考えをお話したいと思います。

■ 非常勤勤務医雇用の目的

私は、非常勤勤務医を雇う目的は大きく以下の3つであると考えます。

  • ①繁忙期に2診あるいは3診体制をつくること
  • ②院長の体調不良や不慮の事故に備えること
  • ③院長のクリニック業務以外の時間をつくること
  • まず1つ目。

    繁忙期には受付から会計までの動線の中で一番渋滞の起こる診察室を、2つまたは3つにするという対策を取っています。
    当クリニックは耳鼻咽喉科で、12月から翌年4月までの繁忙期と、5月から11月までの閑散期に分かれます。繁忙期には予約システムを採り入れ、患者さんにできるだけお待ちいただかないように調整をしても、どうしても長時間患者さんにお待ちいただいてしまうことがあります。
    辛い症状を抱えている患者さんを長くお待たせするのは、大変心苦しく思います。また、患者さんだけでなくスタッフも、昼休みを確保することができず、終業時間の遅くなる日が続くと、疲労が蓄積し、仕事のパフォーマンスも下がります。そこで、繁忙期には受付から会計までの動線の中で一番渋滞の起こる診察室を2つまたは3つにするという対策を取っています。
    少しでも患者さんの待ち時間を短くでき、スタッフの疲弊を防げるなら、非常勤勤務医の雇用は有用です。

    次に2つ目。

    院長の体調不良や不慮の事故に対するリスク対策として、非常勤勤務医と契約しておくことをお勧めします。
    自身の健康管理をしっかり行うことは当然のことですが、2人に1人は癌になると言われる昨今、3年後、5年後、絶対に自身が健康であるとは言い切れません。また、不慮の事故が絶対起きないというわけではありません。
    このようなことが起きた時に、クリニックが休診してしまうと、スタッフにとっても患者さんにとっても困った事態となります。
    このような時、日ごろから非常勤勤務医が代診を行い、スタッフとも患者さんとも顔見知りでいることで、診察を任せることができ、クリニックの運営上大きなリスクヘッジになると考えます。

    そして3つ目。

    曜日を決めて代診をお願いすることで、その時間をクリニックのマネジメント業務や自己研さんに当てるのが良いのではないかと考えています。
    診療をしながらクリニック経営のマネジメントを並行して行うのはとても難しいことです。代診をお願いして家族と旅行するのも良いと思います。なぜなら、院長には通常、雇用保険・有給休暇がありません。
    日々頑張っているご褒美にプライベートな時間を持ちリフレッシュすることで、次の頑張りに繋げ、クリニックに貢献できると思うのです。
    自身の経験からお話しすると、非常勤勤務医を雇用した結果、毎年多くの研修やセミナーに参加でき、医療技術や経営、マネジメントに関する知識の向上にも繋がっています。また、プライベートでは、家族との海外旅行やトライアスロン、ウルトラマラソンへの参加など、患者さんにご迷惑を掛けることなく行えるようになりました。
    これまでの常識では、院長は365日、24時間体制でクリニックにおける診療を支えるものとされてきたように思いますが、少し現場を離れて見つめ直すことも必要だと思っています。かの有名な経営学者、ピーター・ドラッガーの言葉を借りれば、ミッション・ビジョン・バリュー以外はすべてアウトソースできます。

    非常勤勤務医雇用の目的

    ■ 非常勤勤務医雇用の注意点

    非常勤勤務医の雇用には注意すべきこともあります。それは、同じ診療科でも出身大学や所属していた医局によって、診療スタイルや治療方針が同じではないということです。同じクリニックなのにドクターによって治療方法が異なるのでは、患者さんの信頼は得られないと思います。そこで、診療スタイル、治療方針が統一できるように、事前に自身の診療方針に沿ったドクター用の診療マニュアルを作っておくことが必要です。そして、診療を始める前にマニュアルを確認してもらい、その方針に従ってもらうことをお願いしましょう。さらに、そのドクターの診療を院長が何回か見学して修正することもよいと思います。
    また、診療料の算定についてもすり合わせを行うことが大切です。

    非常勤勤務医雇用の注意点

    ■ 非常勤勤務医の雇用方法

    具体的な非常勤勤務医の雇用方法は、大きく分けて3つあります。
    1つ目は、いわゆるコネ。大学の医局繋がりや、先輩や後輩医師からの紹介によるものです。採用するドクターの人柄や診療などについてもあらかじめ把握できるため、採用する側としては非常にやりやすいと感じます。

    2つ目は、MRなど、出入りの業者さんからの情報です。
    MRや薬剤卸業者は、「ドコソコ病院の何某先生はアルバイト先を探している」というような情報を持っています。人柄等も業者さんに聞けるので、よいドクターに巡り合うことがあります。

    3つ目は、医療関係の人材紹介会社に仲介してもらうことです。
    通常人材紹介会社は、成功報酬が主流のため、採用が決まらなければ紹介手数料(通常採用したドクターの年収の約20%)を支払わなくて済みます。しかし、そこに登録されているドクターの質は、ピンからキリまでということを頭に入れておいてほしいと思います。面接を行うだけではなく、そのドクターのバックグラウンドや現在の生活状況等もできる限り把握する必要があると感じています。

    開業してすぐにとは言いませんが、開業当初から、いずれ非常勤勤務医を雇用することを想定して準備をしておくと、いざというとき慌てずに済むと考えます。

    ⇒次回は「34.SMARTの法則に従って目標を設定しよう!」
    ※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものです。

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