32. 業務のマニュアル化

■ クリニックは女性が多い職場

世の中の多くのクリニックは、たくさんの女性が働いている職場だと思います。
中途採用も多く、常勤からパートタイムまで様々な働き方のスタッフが集まっていることが多いと感じます。若い女性を採用することが多いクリニックにおいては、「この人なら」と採用しても、結婚、出産、育児、場合によってはご主人の転勤に伴い遠隔地へ転居など、様々なライフイベントによって長く働いてもらうことが難しい場合もあるでしょう。採用したスタッフがクリニックの理念に基づき、成長しながら永続的に勤務してくれることが一番なのですが、実際にはそういう訳にはいかない…というのが実状なのではないでしょうか。
そこで、クリニックにおいては、どのスタッフも離職する可能性があることを前提として組織運営を行っていくことが大切だと考えます。仮に、ある有能なスタッフの大活躍でクリニックがうまく回っていたとしても、そのスタッフが辞めることになったら、とたんに業務に支障が出てしまうようでは良い運営とは言えず、クリニックの発展はおぼつかないと思っています。
何度も繰り返される業務や作業はマニュアル化し、誰でも同じレベルで業務を行えることが大切です。

■ 業務・作業のマニュアル化

日々業務を回していく中で、院長やスタッフリーダーが今後も繰り返し発生するだろうと判断した業務・作業に関しては、マニュアル化することをお勧めします。例えば、どんな診療科でも必ず行う作業に、医療器具の洗浄と滅菌があります。
採用された看護師さんは、必ず医療器具の洗浄と滅菌の方法を覚えなければならないと思いますが、先輩スタッフがキッチリとそれを指導し、そのスタッフに任せられるようになるまでには、繰り返し指導する必要があり時間がかかります。さらに、せっかく指導してもそのスタッフが離職し新人スタッフが入職すれば、また同じことを繰り返さなければなりません。そう思うと、クリニックの運営上、たかが医療器具の洗浄と滅菌という単純な作業でも、トータルでは相当なタイムロスが発生しているわけです。

当クリニックでは医療器具の洗浄と滅菌についてのマニュアルを作成しました。当初は文書によるマニュアルでしたが、現在ではYouTubeを使って先輩が行う作業を動画で見て確認できるようになっています。
新人スタッフには、文書と動画で医療器具の洗浄と滅菌という作業を覚えてもらい、先輩スタッフは実際に新人スタッフがその作業ができるかどうかのチェックを行う仕組みを作っています。必ず覚えなければならない項目についてのチェックリストを用意して、先輩スタッフはそれを基にチェックします。確認体制までを含めて医療器具の洗浄と滅菌という、一連の作業をマニュアル化しています。つまり、どんな新人スタッフをどんな先輩スタッフが指導したとしても、同じレベルの作業が習得できるようにしてあるのです。

業務・作業のマニュアル化

■ マニュアルの効果的運用

せっかくマニュアルを作ったのにうまく活用できていない…という残念なお話をしばしば耳にします。そのような場合は運用の仕方を工夫するといいでしょう。
マニュアルを理解しているかの小テストを定期的に行うなどして、スタッフにマニュアルの存在を再確認してもらうことなども一つの方法です。ただ、上から押し付けられてマニュアルに従うのではなく、スタッフがマニュアルの効果をいかに理解し、いかに自発的に活用するかが重要です。具体的には、マニュアルを作った目的をスタッフにしっかり伝えて理解してもらうことや、マニュアルによってどれくらい時間の無駄がなく効率的に業務が行われているかを示すことなどで、理解を促すのです。
これらの方法も一定の効果があると思いますが、作ったマニュアルを効果的に活用するのに最も有効な方法は、スタッフにマニュアル作成作業に関わってもらうことです。院長が作成し、上からこうしろと伝えたマニュアルよりも、時間はかかっても現場のスタッフ自らが頭を使い試行錯誤して作成したマニュアルの方が、理解はより深まるでしょうし、実行する意欲もわくというものです。

リーダーの役割

■ 新卒採用スタッフ事前教育のマニュアル化

同様の目的で、当クリニックでは新卒採用スタッフの事前教育もマニュアル化しました。事前に理念教育を行い、クリニックの理念をより早く新人スタッフに浸透させようと考えていますが、私が忙しくなった今では、毎回その教育を自らが行うことはできなくなりました。そこで現在では、どのような内容の理念教育をどのような方法で、どこをポイントとして伝え、確認テストはどのように行って、最終的にはどのような結果を得たいのか…というマニュアルを作成し、先輩スタッフに教育を任せています。
新卒採用スタッフの事前教育もマニュアル化したことで、誰が教育を担当しても常に一定のクオリティで教育できるようになったと感じています。

リーダーの役割

■ マニュアルのデジタル化

当クリニックのマニュアル実例を2つほど紹介しましたが、実は当クリニックのマニュアルは現在何百ページにも及ぶ膨大なものとなっています。
紙ベースで保管していたのでは、必要なページを探し出すのも大変、無駄な時間を費やすことになります。従ってすべてをクラウドで管理し、キーワードで検索すればすぐに必要な情報を引き出せるようになっています。これも、どうすれば効率的に業務を行うことができるかを追究していった結果です。
マニュアルを作ろうとしても一度にたくさんの内容を作れるわけではありません。クリニックを開業したばかりの皆さんは、まずは紙ベースでいいので、くり返される業務や作業に関するマニュアルの作成を始め、徐々に増やしていくことをお勧めします。

リーダーの役割

⇒次回は「33.非常勤勤務医を雇うということ」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものです。

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