開業して戸惑うことの一つに、医薬品の卸業者さんや医療機器メーカーとの接し方があります。勤務医の場合、製薬会社のMRさんとはお付き合いがあるでしょうが、恐らく医薬品の卸業者さんとはほとんど接点がないのではないでしょうか?また、医療機器メーカーなどの営業さんと売買価格の交渉をするのも、開業して初めての経験だと思います。そこで、私の経験からのアドバイスをお伝えしたいと思います。
■ 製薬会社のMRさん
豊富な医薬品情報をタイムリーに提供してくれるMRさん。私も勤務医として赴任した病院には、いずれも出入りのMRさんがいらして、そのMRさんから説明される薬剤の効果や副作用などのデータを参考にして、自分たちの治療に沿った薬剤を選択していました。そして、そのMRさん方とは、職場以外でも医師と出入りの業者さんとの関係ではなく、人としてお付き合いさせていただいた思い出もたくさんあります。約10年が過ぎ時代は変っても、皆さん方も同様なのではないかと思います。
私の場合、生まれ育った関西とは遠く離れた札幌に転勤した時には特に、知らない人ばかり、右も左も分かりませんでした。そんな状況で、真っ先に親身になって相談にのり、生活のあれこれを世話してくださったのが、ある製薬会社のMRさんでした。その方とは仕事が終わってから一緒に食事に行ったり、休日はスキーに行ったり、テニスをしたり、プライベートでも様々な交流をしました。札幌を離れる際に頂いた名刺入れは、今でも私の宝物です。
開業してからも、製薬会社のMRさんは当然クリニックに来られますし、その情報はとても参考になります。例えば、アレルギー性結膜炎の点眼薬「アレルジオン」は、ソフトコンタクトレンズを装着していても点眼可能です。そういった、一旦開業してしまうと他のドクターからなかなか流れて来ないような情報を教えてくれます。ですから、開業してからもドクターとしてさらに知識・技術を磨くためには、日々のMRさんとの関係は非常に重要なものです。
とはいえ、MRさんの中には、ただ業務日誌にドクターとのアポを取って面会したという成果を記入するためだけにやってくる方もいらっしゃいます。そこで、どのMRさんとどの時間に会うかという調節も非常に大切になっています。無制限にアポを受けていると、毎日の昼休みはMRさんや医療機器メーカーさんとの面談に費やされることになってしまうので、その辺りの調整をしっかり決めておく必要があります。
■ 医薬品の卸業者さん
勤務医時代にはおそらくほとんど接点がなかったであろう、卸業者さんですが有名どころは株式会社メディセオ、株式会社ケーエスケー、株式会社スズケンなどでしょうか。私たち開業医が使用する医薬品は、卸業者さんから仕入れるのですが、価格は会社によって少し差があります。地域の中で価格の設定を同じにしている…いわばカルテルのようなことをやっているという噂を耳にしたことがありますが、真偽のほどは分かりません。
クリニックを経営する立場から言えば、できる限り仕入れ価格は低く抑えたいわけです。そこで、開業したての頃は全て契約した卸業者さんから購入していましたが、現在ではアスクルのように通販で低価格販売しているところもあるので、ガーゼやシーツ、注射器など卸業者さんから買うのと遜色ない場合は、一番安いところから買う努力もしています。また、分院もあるので、各院の在庫を確認しながら大量仕入れというスケールメリットを享受することも忘れていません。
なお、梅華会では医薬品の選択や採用は看護師が行っています。驚くドクターも多いだろうと思いますが、定期的に仕入れ価格を見直したり、ロットによる発注で1個当たりの単価が下げるような交渉をしたり、例えばインフルエンザのワクチンのように、時季的な大量発注に関することまで、看護師が卸業者さんと交渉しています。
私が多忙であることもそうしている理由の一つなのですが、スタッフへの理念教育をしっかり行ってそれを共有できていれば何ら問題はありません。私は、トップができるけれどやらずに済むことがあるのが組織の理想の姿だと思っています。
■ 医療機器メーカー
診療科目によって多少の違いはありますが、おそらく医療機器購入にかかる費用は、開業時の初期投資費用の少なくとも半分を占めると思います。また、開業時の購入だけでなく、その後の故障やトらブルにいかに迅速に対応してもらえるかが重要です。
例えば、耳鼻咽喉科である梅華会にとって、なくてはならない医療機器と言えば鼻咽腔ファイバーです。ファイバーは頻繁に使う上に先端が非常に細くなっているので、患者さんとの接触で先端が傷んだり、ゴムが劣化することがあります。診療時間内にファイバーが故障してしまうと、当然治療に支障が出るので、患者さんにご迷惑をお掛けすることは避けられません。そのような場合に迅速に対応してもらえるような環境を整えておくことが不可欠です。それには、医療機器の導入の際にトラブルの際に迅速に対応してもらうことをうたった保守契約を結ぶことが大切です。
また、医療機器メーカーの営業さんはドクターの動向に関する情報をたくさん持っています。梅華会の分院を開設する際に院長として迎えた南野尚也さんを紹介してくださったのも、ある医療機器メーカーの営業さんでした。
開業すると関わる必要性が出てくる主な出入り業者さんとのコミュニケーションについてお話しました。いずれの場合も相手は営利目的でクリニックと相対します。ですから、人として誠意あるお付き合いをするとともに、お互いがWIN-WINの関係を構築できるような提案を常に行えるよう常に自分を高めていく必要があると考えます。
⇒次回は「25.目標設定会」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。
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