16. 時間の管理

■時は金なり、金以上なり?

「時は金なり」とは、アメリカ合衆国建国の父の一人、ベンジャミン・フランクリンの言葉です。そして、世界的ベストセラー『7つの習慣』を著したジェームス・スキナーは
「時は金以上なり」と言っています。
40歳を過ぎた私が今、自分の過去を振り返って言えることがあります。
それは、時間の大切さを感じ取れるようになったのはクリニックを開業し経営者となってからであり、明確に時間の使い方に目覚めたのは、分院を設立する前後からだったということです。そして時間の大切さは年々さらに身に染みて実感しています。
開業してから分院を設立しようとしていた当時は、クリニックの院長として通常の診療を行っていました。その傍ら並行して、分院設立のために業者さんと折衝しながらの機器の導入の検討、内装の図面の設計、法人の定款変更、市役所に届ける書類の作成……などなど、多忙を極めていました。細かくはテレビの取り付け金具の発注などまでやっていました。
当時の私には、物事を人に任せるという考えがあまりなく、何でも自分でやる癖がありました。私の周りの一般的なクリニックの院長先生を見ても、当時の私がそうであったように、なまじ何でも出来てしまうが故に、小口現金の管理から銀行への入金作業、レセプトチェック、在庫管理…などなど、挙げればきりがありませんが、スタッフに任せて問題のない雑多なことまですべて院長自らがやってしまっているのではないでしょうか。そして、あまりに忙しくて、院長しかできない、本質的に院長がすべきである重要事項にご自身の目をフォーカスできずにいるケースが多いように見受けられます。複数の分院をまとめるようになった今では、院長がスタッフに任せるべき仕事はたくさんあり、できるだけ多くのことを権限委譲しなければならないと、より強く感じるようになりました。

■時間管理マトリックス

私はある時、著述家・評論家として有名な勝間和代さんが著書の中で時間管理のマトリックスを紹介しているのを目にし、自分の中に衝撃が走ったのを覚えています。時間管理のマトリックスは、重要度と緊急度をマトリックスとして、
第1領域(問題・課題の領域)=重要かつ緊急
第2領域(質の高い領域)=重要だけれど緊急ではない
第3領域(見せかけの領域)=緊急だけれど重要でない
第4領域(無駄な領域)=緊急でも重要でもない

に分け、第2領域を捻出することで業績が上がるというのがその概要でした。
それを読んだ私は、自分の行っていることにいかに第3、第4領域が多いのかということに愕然としました。
当時、時間がないと感じていたのですが、24時間の使い方を見つめ直してみると、時間がないのではなく単に自分の時間の使い方が正しくなかった、自分が大切にする価値観をコンパスとして時間を使っていなかっただけだったと気づきました。自分のやりたいこと、本当に自分の成し遂げたいことにフォーカスして優先順位をつけることなく、限られた時間を配分していたという点が、当時の自分の時間管理における未熟な点であったと気づいたのです。

時間管理マトリックス

■大きな石、小さな石

また、私が参加した「7つの習慣セミナー」でも、コヴィー博士はスケジューリングについて、バケツに石を入れる例えを使い同様のことを説明されていました。バケツの中に石を入れる時には、まず大きな石から入れ、それから小さな石を入れないと、バケツの中に効率的に石を入れることができない。まず先に小さな石を入れてしまうと、大きな石まで全部入りきらないというのです。正しいスケジュール管理はまさしくこれと同じで、大きな石つまり重要なことを優先しないと、限られた時間の中では優先すべき事項に手がつかなくなってしまうというのです。

当時の私にとっての大きな石は、健康管理であったり、将来のクリニックのビジョンを練る時間であったり、家族との時間でした。逆に、さほど重要でない、つまり小さな石は、お付き合いだけの飲み会であったり、テレビでの野球観戦であったり、ネットサーフィンであったわけです。この大きな石、小さな石が何かは、一人ひとり異なると思いますが、大きな石=塊であり、時間としてしっかりとまとめて確保する必要があるということの象徴でもあります。
私の場合は、1日の中で1時間の時間を割くということはそれほど大きな石ではなく、3日間の休みを取って研修に行くことや1週間休みを取って海外旅行に行くこと、あるいは1週間の休みを取って海外のマラソンレースに出ること、そういったことがいわゆる大きな石であり、事前に時間をブロッキングしていないと到底達成できません。私は、大きな石のために事前に時間をブロックすることによって、さまざまな経験を重ねています。先日も、ゴビ砂漠250キロマラソンレースに参加。約1週間かけて走ってきました。これについては、回を改めてお伝えしたいと思っています。

時間をブロックするためには、小さな石、つまり私にとって緊急度もなく、重要度もない第4領域のことはどんどん止めていくことが必要です。例えば、私はテレビを見るのを止めました。
以前は野球番組が大好きで、特に阪神タイガースの大ファンだったので、シーズン中は帰宅したら習慣的にテレビのスイッチを入れていました。そして一度テレビのスイッチをONしてしまうと試合終了までその野球番組が流れ、自ずと家族との対話は少なくなってしまいました。また、お笑いなどバラエティ番組も録画するくらい大好きでした。しかし自分が本当にやりたいことは何なのかと自問自答した結果、観るのをやめました。ただし、テレビ番組の中でも「ガイアの夜明け」「情熱大陸」の2本だけは今でも観たいと思っているので、時々人に録画を頼んで、空き時間に観ることもあります。またインターネットサーフィンも止めました。テレビ観戦を止めた後も、引き続き阪神の選手情報をどうしても拾いたくて、試合後の選手のコメントや活躍した時の場面の動画をYouTubeで検索してしまったり、あるいは野球評論家のコメントを聞いたり、はたまた2チャンネラーの意見まで収集するようになったりで、膨大な時間を取られてしまっていたのです。
このような、緊急度も重要度も低い第4領域の活動を減らすことによって、自分自身の時間の使い方が大幅に改善されたように感じています。そして現在では、週末は定期的に家族そろって水族館や動物園に行ったり、あるいは夫婦で映画を観にいったり――という私にとっての大きな石である家族との時間は、半年先まで予定をブロックしています。
仮に夫婦で映画を観にいくとなった場合、その日は子どもたちの面倒を誰かに看てもらわなければなりません。その場合は事前に近くに住む母にお願いするのが通常ですので、事前に相談しておくという準備が必要となります。このように半年先まで予定をブロックすると、必要な事前準備も見えてきます。そして秘書とはGoogleカレンダーで共有していますので、秘書はブロックされた時間にはアポを入れないので、時間のブロッキングは非常に効果性の高いものになっていきます。

大きな石、小さな石

■他者の時間の使い方を学ぶ

私の時間というものに対しての強い意識は本と研修を通して形成されました。
他の方法として、何か一つのことに成果を出している身近な人の時間の使い方を学んでみるのも良い方法かと思います。自分よりステージの上の人、あるいは自分より成果を出している人の時間の使い方には必ず何かしら学ぶものがあります。ですから、そのような人から直接話が聞けるのであれば、それに越したことはありませんし、その人の著した本や開講しているセミナーからも、何かを学び、つかむことができるのではないでしょうか。

他者の時間の使い方を学ぶ

⇒次回は「17.権限委譲」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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