2. 開業を目指すドクターへのアドバイス

私が開業しようと思った時、書籍にそのノウハウを求めました。
しかし教材は見つかりませんでした。
そういった意味で医療界はとても遅れています。私はその時、既に開業された先輩のアドバイスや助言を参考するとともに、経営に関する書籍のベストセラーを読破しました。しかし、いざ実際に開業するとなると多くの失敗を経験しました。
 私が開業を志してから今までに経験したことや失敗したこと。他の開業されたドクターの経験されたこと。それらを共有できれば、それはこれから開業されるドクターにとって非常に良い教材になると信じています。私がこのM.A.Fを作った目的の一つがそこにあります。

■開業前に人生のパートナーを見つけよう

この回で私が開業を目指すドクターへお伝えしたいことは、3つあります。

まず1つ目は、特に男性のドクターへのアドバイスで、人生のパートナーを見つけてから開業した方が良いということです。
開業するまでは、クリニックを設計・建築を行ってくれる建築会社への支払い、銀行の融資を受けるために市役所に印鑑登録証明書を取りに行く、登記関係に必要な書類を揃える…などなど、挙げればきりがないほど細々した用事がたくさんあります。開業するからといって、自分は何の仕事もせずに家にいるわけではありません。私の場合は勤務していた病院を辞め、アルバイト医師の生活をしながら開業するにふさわしい物件探しを行っていました。
そのような状況下では、雑多な手続きを行ってくれるパートナーが不可欠です。いくら雑多な手続きとはいえ、昨日今日雇ったスタッフに頼める内容のものでもないので尚更です。

また、いざ建設に着工し院内の内装工事が始まると、椅子やカウンターの仕様、壁やカーテンなどインテリアの色合い、トイレ等水回りの機器の選択……、医療とはかけ離れた決め事が数多く出てきます。男性の私にとっては「そんなことどうでもいいや。好きにやって!」と業者さんにお任せしたくなるようなことに思えます。しかし実は、これはかなり重要なことなのです。
私の専門とする耳鼻咽喉科もそうですが、クリニックに来る患者さんは女性が多いのです。お子さんやお年寄りに付き添って来られるのも女性がほとんどです。そして女性は男性と違い、院内のインテリアなどに敏感です。
私のクリニックの内装は妻のアドバイスによるところが大きいです。来院される患者さんから、このクリニックは雰囲気が良いと褒められると、妻のアドバイスを受け入れてよかったと思います。

それだけではありません。実は、これが人生のパートナーがいることの一番大きい効果と思うのですが、家族が精神的な支えになるということです。私は、最初開業しようとした土地の手付金を結果的には棒に振ることになりました。そのような事態に直面したとき、結婚したばかりの妻が常に励ましてくれました。「妻がいるから頑張ろう」と思うことで、困難を克服する大きなパワーをもらいました。今までに経験のない問題や雑多な手続きの連続。家族という存在なしには開業というモチベーションを保つことは難しいと実感しました。

経営者としての能力

■仕事上のパートナーを見つけよう

2つ目は信頼できる仕事上のパートナーを見つけるということです。
開業に向けて動き始めると、開業を斡旋する卸業者さん、開業コンサルタント、チェーン店を持つ大手調剤薬局…など、多くの方が開業地を斡旋してきます。しかし、相手にとって都合のよい場所が、必ずしも自分にとって都合が良いとは限りません。下手をすると、自分の思い描くクリニックとはかけ離れてしまう可能性もあります。
従って、先方がよきパートナーとなり得るか否かを見極める必要があります。

相手を見極めると言ってもそう簡単ではありませんが、ポイントは2つあります。

①自分の直感を信じる

1つ目は自分の直感を信じることです。まずは、初めて会った時の印象、それがまずまずの感触なら、一緒に食事をするなどシチュエーションを変えて長時間接すると相手との相性も分かってきます。どうも話が弾まない、何となく口先だけのような感じがする、何を言ってもYesしか言わない……その時受けた自分の感性を大事にすることが1つのポイントと思います。

②過去の実績調査

次に、その業者さんの過去の実績の調査も欠かすことはできません。
過去にどのようなクリニックを立ち上げて、その際何をしたかの情報収集をするのです。場合によっては、そのクリニックのドクターにお会いして直接状況を聞くことも必要です。開業に手を貸してくれる場面において、一方的に先方の価値観を押し付けてくるのではなく、開業するドクターの価値観ややりたいことを理解してそれに沿ったものを提供してくれる――そういった業者さんを仕事上のパートナーとして探すことをお勧めします。

経営者としての能力

■開業について深く考える

3つ目のアドバイスは、「なぜ自分は開業するのか」「なぜその地を開業地としたのか」「開業に対する想いは何か」を真剣に深く考えることです。もう〇歳だからとか、周囲に勧められるからとか、同期は皆開業したから自分もそろそろとか、何となくという流れで開業しないでください。
勧められたことがきっかけであっても、「この地でこういう医療を提供して地域に貢献したい」といった、ぶれない軸を持って開業準備をしてください。
最後にお伝えしましたが、実はこれが一番重要かもしれません。
パートナー探しにおいても、自分の価値観、想いを共有できる人を選べばいいのです。ぶれない軸を持っていれば、開業に際してや開業してからの困難に打ち勝てるはずです。

⇒次回は「3.私の失敗から見る開業地選び」