1. 開業医の心構え

人生や仕事の成果は
『能力×熱意×考え方』という掛け算で決まる

これは、京セラの稲盛和夫名誉会長が提唱されている人生の方程式です。
3つの要素のどれか1つでも欠けることがあれば、満足のいく成果を得られないという考えを表しています。
開業するに当たり、私はたくさんの書物を読みました。その中で出会った稲盛会長のこの人生方程式に強く刺激を受けました。生業が医業であっても例外ではなく、成功するためには「能力」「熱意」「考え方」の3つの要素が求められるのです。そして、成功とはクリニックとしての成功だけではなく、開業医が一人の人間として満足できる生活を送ることでもあります。

クリニックがどんなに繁栄しても、自分の家族との生活や自分の趣味を楽しむことを犠牲にするようでは、人として成功したとは言えないというのが私の考えです。
それを踏まえて、今回は人生や仕事の成功に欠かせない上記3つの要素について考えてみましょう。

■開業医に求められる“能力”

1.開業医に求められる能力とは?

皆さん、開業医に求められる能力とは何だと思われますか?
医療に関する知識や治療技術でしょうか?
例えば、大学病院等で先進医療に従事され、日本で一人だけができる手術を行っているドクターのもとに全国から患者さんが集まるというのはよくあることです。しかし、開業医に求められる能力は日本で一人というような卓越した技術ではありません。
医療技術を引き続き学び高めるいう姿勢は必要ですが、実務能力は勤務医時代に培った現在お持ちの水準で十分であると考えます。

2.経営者としての能力

忘れてならない開業医としての能力は「経営者としての能力」です。
しかも、実は、ドクターにとって一番欠けているのが経営者としての能力だと考えます。なにしろ、経営について今まで学んだことはないのですから。
私が、この「経営者としての能力とは何か?」を突き詰めて考えたとき、たどり着いた答えが「クリニックというチームをうまく作る能力」でした。
現在、大学病院等ではチーム医療という言葉が多く使われるようになってきています。しかしここでいうチームは医療チームではありません。もっと範囲が広く、出入りする業者さんや患者さんも含めたクリニックに集まる人すべてを含めます。

経営者としての能力

経営というととかく経理、収益、売上などの数字の管理を思い浮かべるでしょう。
しかし院長自身がその能力を身につけなくてもよいのです。経理・財務に精通したスタッフを採用し顧問税理士を付ければ、院長は報告を受けるだけで済みます。経営者には高度な経理・財務の事務処理能力は必要ありません。それよりも、院長の想いに共感した経理や財務に精通している人材を採用できるかが重要なのです。
また、このチームには、スタッフのみならず患者さんや出入りする業者さんも含まれます。つまり、よいチームを作るためには以下の2点が重要です。

①チームに相応しい人材を採用しよりチームに相応しいメンバーに育てること
②クリニックに出入りする皆さんとの良い人間関係を築くこと

個々のノウハウは、のちのち詳しく解説してまいります。

■開業医に求められる“熱意”

1.開業は山あり谷あり

皆さんは、どのような経緯で開業を志されたのでしょうか?準備万端で開業をしたつもりでも、いざ、クリニックを開いてみると、大なり小なりクリニック経営が思うように進まない事態が起こります。思ったように患者さんが集まらなかったり、採用したスタッフがすぐに辞めてしまったり、あるいは受付スタッフの何気ない言葉で患者さんからクレームが来たり……。開業以前に開業地の選定1つとってもなかなか思うようにはいきません。
少なくとも今までの人生では優秀な成績で医師となり、周りから見れば羨ましがられる立場であったドクターにとって、大きな戸惑いを感じることでしょう。

2.熱意こそすべて

そんな時、重要となるのが「開業に対する熱意」です。
「自分はなぜ開業したのか、どういったクリニックを目指しているのか、自分に与えられたミッションは何か」――これらを明確にし、その目標に向かって絶対にやり遂げるという強い熱意を持つことが重要です。開業に当たっては、ただ何となく〇歳になったからそろそろ開業しようか…ではなく、少なくとも自分が目指すクリニック像を描くことが必要です。
そして、問題や危機に直面した時、現実を受け止めないで有耶無耶に済ませるのではなく、合理的な解決を図らなければなりません。その上で、何が何でも開業時に志したことを絶対にやり遂げるという熱意を抱き続けること。これこそがクリニックを成功させる鍵となるのです。

経営者としての能力

■開業医に求められる “考え方”

1.オープンマインドで

ここでいう考え方とは、望む未来をし、他者の意見に耳を傾け、よいと思える点はどんどん取り入れるという「心の在り方」です。院長という立場にあると、お山の大将になりがちです。こちらから積極的に働きかけないと、意見やアドバイスを頂く機会はありません。そして、気づくとクリニックの中で孤立していることも多々あります。

2.節約・勤勉・友愛の実践

私は、先人や偉人から一個人としての物事に対する姿勢を学び、日常の中で節約・勤勉・友愛などを実践してきました。医療人である前に、まず人として他人の役に立つ存在、他人から必要とされる存在となりたいと思っています。そのためには、広く多くの方から学びを得ることが大切です。

当然、私の考え方が全てではありません。しかし、新採用のスタッフの声にも耳を傾けるというような些細なことの積み重ねが、実はクリニック経営を潤滑に行う鍵でもあります。

■成功のモチベーション維持を

以上、開業医に求められる「能力」「熱意」「考え方」について、私の意見を述べてきました。
開業することに対して不安を感じたり、開業後なかなか思うようにいかない時こそ、自分自身がどれだけ自分を信頼し、誇りと自尊心を持っているかが問われます。
「開業したこの地で絶対に成功するのだ!」というモチベーションを保つことが重要なのです。

次回は「2.開業を目指すドクターへのアドバイス」です。
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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