■紙カルテと電子カルテ
最近では、クリニックを開業されるほとんどのドクターが紙カルテではなく、電子カルテを導入されているようです。開業前に勤務している病院も電子カルテを導入しているところが多いでしょうから、ドクターにとって電子カルテは当たり前になってきているのかもしれません。国の政策としても紙カルテから電子カルテへの誘導が見て取れます。
しかし、一方で電子カルテを導入したもののうまく使いこなせていないと感じている開業医も少なくないと聞きます。私のクリニックも電子カルテを使っていますが、経験からアドバイスをできたらと考えています。
■電子カルテのメリット・デメリット
一般的にIT化のメリットは、①距離、②場所、③時間の制約を払拭することと言われますが、電子カルテのメリットも同様です。
PCさえあれば、
①距離:診察室や検査室、処置室など場所を問わずにカルテを閲覧したり、入力したりできます。また、将来的には医療連携の上でも大いに期待ができます。
他の診療科や大きな病院とネットワークで繋がっていれば、患者さんの情報が共有できるからです。
②場所:紙カルテでは必須だったカルテの保管場所が要らなくなります。
新規開業するクリニックの中には最初からカルテの保管スペースを設けないところがあります。また、保管スペースに困り電子カルテの導入を検討する開業医もいると聞きます。
③時間:カルテを探す・片づける手間がかからなくなります。
受付や会計に要する時間が短縮されることで、スタッフの手間が省けるだけでなく、患者さんをお待たせする時間の短縮も図れます。また、外注検査の結果をカルテに貼ったりするなどの作業も不要になります。さらに、会計時にカルテを見ながらレセコンに打ち込む作業が不要となり、レセプトチェック機能を活用することでレセプト点検業務の大幅な効率化が図れます。このほか、電子カルテの種類にもよりますが、紹介状や診断書などの作成も簡単に行えるなど、これも時間の短縮に貢献しています。
とはいえ、やはりデメリットもあります。
まず、月々数万円の維持コストがかかります。
また、スタッフも含めて入力に慣れるまではかえって時間がかかることもあります。そして、万一故障した時は、復旧するまで診療がしづらくなります。
メリット・デメリットを比較して総合的に言えることは、うまく使いこなせるように努力すれば、時代の流れから言っても電子カルテの導入が合理的ではないでしょうか。
■電子カルテの選び方
さて、うまく使いこなす努力と言いましたが、そのためには使い勝手の良い電子カルテを選ぶことが重要です。現在出回っている電子カルテは百花繚乱。ざっと挙げただけでも、富士通、BML、ダイナミクス、パナソニック、ラボテック、ユヤマ,ORCAなどなど…。実にたくさんのメーカーから発売されており、その中から一つを選ぶとなると、皆さんは大いに悩まれることとなるでしょう。
私のアドバイスとしては、まず、インターフェイスが病院向けなのか、クリニック向けなのかを把握することが重要です。
有名なメーカーだから間違いないだろうと採用してみたところ、実は病院向けのインターフェイスで、小規模なクリニックでは使いにくいということがあります。病院向けのインターフェイスだと、多種類の検査や指示を院内で処理することを前提としているので、クリニックレベルでは、使わない機能が多く、検査を外注する場合には使いにくいという問題も発生します。ですから、そのインターフェイスがクリニック向けであるかどうかを必ず確認してください。間違えても、自分が使い慣れているからという理由で今まで勤務していた病院と同じ電子カルテを使おうなんて思わないでください。
クリニック向けのインターフェイスの電子カルテをいくつかピックアップしたら、次は電子カルテのフェアなどに出向いて、設置してあるデモ機を動かし、使い勝手を確認してみましょう。さらに可能であれば、これはと思う電子カルテを実際に導入しているクリニックに見学に行くことをお勧めします。各メーカーは、製品を提供しているクリニックの見学の可否を把握しています。実際使っているところを見学したいと伝えれば、見学できるクリニックを紹介してくれるはずです。
私のクリニックではユヤマというメーカーの電子カルテを使っています。すでに採用している先輩のクリニックに伺って、実際の使い勝手を確認してから採用しました。診療科によって使いやすい電子カルテは異なると考えられますので、できれば同じ診療科のクリニックへ出向いてください。
■電子カルテの選びは慎重に
電子カルテの選定にこんなに時間をかけるくらいなら、実際に使ってみて使いにくかったら取り替えようとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、それは、単に費用が掛かるだけではない困難があることを覚えておいてください。
なぜなら、建前からもしれませんが、メーカーの異なる各電子カルテ間では互換性がないからです。少し使ってみてどうしても使いにくいから取り替えようと思っても、過去のデータを簡単に移行できないので、不可能に近いのです。技術的には不可能ではないのでしょうが、メーカー側からするとユーザーの流出を防止するために、簡単に移行できないようなシステムにしているのかもしれません。ですから、くれぐれも申し上げますが、電子カルテの選定には慎重にも慎重を重ねていただければと思います。
⇒次回は「12.スタッフとのコミュニケーション」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。
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