■求人情報の発信
開業を決めた時から開院までに必ず行わなければならないことの一つが、看護師や受付などのスタッフの採用です。
皆さんもご周知のとおりですね。良いスタッフを採用し、長く勤めてもらうことに多くの開業医の皆さんが頭を痛めていると言っても過言ではありません。
私自身、開業した2008年は、スタッフの採用に関する知識やノウハウはまったく持ち合わせていませんでした。行った求人活動は、求人情報誌やハローワークに求人情報を掲載したのと、建築中のクリニックの外壁にスタッフ募集のビラを貼ったことだけでした。そして、それらに掲載した内容は、耳鼻咽喉科のスタッフを募集します程度の、今にして思えばまことにご粗末なものでした。しかし、それでも当時は買い手市場の時代でしたから、7名の採用枠に対して数十名の応募がありました。
■採用試験について
全ての応募者を対象に採用試験を行いました。採用試験と申しましても、試験方法がきちんと決まっていたわけではありません。
全ての応募者と面談をし、志望動機など一般的なことを尋ね、そのほか差しさわりのないことを少し話しただけです。また、採用のための面接をするなんてかつてない経験で不安でしたから、開業のためにお世話になっているコンサルタントの担当者と、女性の視点も大事にしたかったので妻にも同席してもらいました。
きちんとした採用基準もなく、何となくこの人ならいいのではないかという感覚で内定を出しました。
そうして採用したスタッフの中には、就業して3日後に突然出勤して来なくなり、履歴書の連絡先である携帯電話でも自宅の固定電話でも一切連絡がとれなくなったこともありました。
ニコニコと働いていたので、仕事内容や職場環境に満足してくれているとばかり思っていましたから、そのようなことになった理由は皆目分からず、途方にくれたのを今でも鮮烈に覚えています。
■採用基準の明確化・マニュアル化
あれから何年も経ち、経営者として私が成長できた今、はっきりと言えることがあります。
採用活動では、クリニックが求める理念や目的を明確にした上で、それに連動して採用する人材に求めることも明確化し、それにコミットしてくれる人材を採用しなければならないということです。
採用する人材に求めることの明確化においては、大前提としてクリニックの理念・目的に沿った行動をとってくれることを約束してもらう必要があります。
その上で、例えば
・気立てがいい
・笑顔がいい
・細かいところに気が付く
・パソコンでの入力に慣れている
などを明文化することです。
とはいえ、すべての項目をクリアする人材は見つけることは困難なので、自分のクリニックとしては必ず必要であるという項目にマークをします。そして、マークされた項目全てに〇が付けられない方は、残念ながらご遠慮願うようにしています。
耳鼻咽喉科である私のクリニックでは、お客さんはお子さんが多く、また人と接する仕事なので以下の2項目は最も重視しています。
①子ども好きかどうか
②社交的かどうか
現在では、スタッフ採用の面接は採用担当者に権限委譲していますので、その辺りも含めてしっかりマニュアル化し、私が同席せず誰が面接を行っても同じ方針で採用できるような態勢を整えています。
このマニュアル化については、別の機会に具体的にお伝えしたいと思っています。
■求める人物像の明示
このほか、私のクリニックでは、他のクリニックで求めているのとは異なる人物像の人材も求めています。「主体的に行動できる」、「創造的な価値を提供できる」人材です。
そして、重要なのは、求める人物像についても募集要項などではっきり明示し、募集時に周知する必要があるということです。つまり、求める人物像を明記することが、その素養を全く持ち合わせない人には応募を諦めていただくという、一つのふるいとなるわけです。
■採用サイトの有効性
スタッフ採用の募集ツールとして私が最も有効だと考えているのが、クリニックのホームページ上に採用サイトを作成することです。求人ツールとして一般的である、新聞の求人欄や求人雑誌などには掲載できる文字数に制限があります。よって求める人物像などを詳しく載せることができません。しかし、自分のクリニックのホームページ上なら、文字数制限はありませんから、いくらでも詳しく伝えることが可能ですし、表現方法も自由です。ハローワークのように決められたフォーマットに従って記載する必要はないわけです。
そこで、ホームページの採用サイトでは、クリニックで採用したい人物像をより詳しく伝えましょう。すると、自ずと求める人材に近い人から応募してもらえることにつながり、より理想に近い人材の母集団が形成されることになります。
母集団は数が大きければいいというものではありません。量よりも質です。
クリニックの方向性を理解している、自分のクリニックにとって質の高い母集団をつくることによって、うまいマッチングが叶います。これは採用する側の時間の短縮、効率化のために合理的です。また、採用試験を受ける皆さんにとっても、採用されない会社や、仮に採用されたとしても自分に合わなくて辞めることになるであろう会社の試験を受けたり、勤めたりしなくていいというメリットもあります。つまり、採用する側とされる側のうまいマッチングには、お互いの時間・労力のロスを減らせるという大きなメリットがあるのです。
さらに、受付、看護師、医療事務などの職域によって求める人物像は異なりますので、募集する職域ごとに仕事の内容と求める人物像を詳しく示すことが重要です。
さらに、開業時に新卒者を採用するのは難しいと考えます。なぜなら、指導できる人材がいないからです。新卒採用はクリニック業務が軌道に乗り、各スタッフに院長やクリニックの理念が浸透し、院長が居なくても先輩スタッフが理念に沿った教育を行えるようになってからがよいのではないでしょうか。
⇒次回は「11.カルテの選択」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。
開業医コミュニティM.A.Fではクリニック経営についての情報発信、セミナー開催など行っております。最新のM.A.Fからの情報を得るために無料のメールマガジンにご登録ください。