64. 診療時間の短縮

■ 診療時間を見直す

私の専門は耳鼻咽喉科です。ですから、2月も中旬となると花粉症の患者さんが増え始め、3月、4月は繁忙期に入ります。
どこのクリニックでもそうでしょうが、クリニック経営が順調で多くの患者さんに支持されているクリニックは、いつも昼休みは短く、診療時間も延長して対応していることが多いと思います。午前の診療が終了すると昼食もそこそこに午後の診療開始というドクターもいらっしゃると聞きます。ましてや、繁忙期がある診療科では、その時期の診療時間の延長は大きな課題になっていると思います。そして、それは院長のみならず、スタッフにとっての課題でもあるわけです。

診療時間の短縮と申しましたが、患者さんの受付から会計までの動線上でボトルネックになっているのは、常にドクターの診察部分であるのは明白です。従って時間を短縮するには医師の診察時間を見直すことが必須だと思います。しかし、なにも診察に手を抜き一人当たりの所要時間を短くして対応すべき、と言っている訳ではありません。
例えば、繁忙期だけ非常勤勤務医をお願いして、2診制、3診制にするという対処方法も考えられます。しかし出身の医局などが異なると、自分と勤務医の診療方針や診療方法の擦り合わせなど課題も多く含みます。また当然、報酬も支払わなければならないので、人件費も多くかかることになります。

■ クラークの配置

そこで私は、繁忙期も閑散期と同じスタッフ人数のまま、いかにすれば診療時間を短縮できるか考えた結果、診療時間の短縮には何と言ってもクラークの存在が大きいという結論を得ました。複数の診療科を持つ病院などではよく見かけるクラークですが、個人のクリニックで見かけることはあまりないのではないでしょうか。ですが、私は患者さんの待ち時間をどうしたら短縮できるかを考えた結果、クリニックにクラークを置くことにしました。
通常はカルテに入力するのは医師だと思いますが、私のクリニックではカルテへの入力はクラークが行っています。私の感覚では、医師が診察に専念することで1.5倍くらいの患者さんの診察ができるようになります。つまり、患者さん1人当たりの診察時間が3分の2に短縮できるようになる訳です。
さらに、電子カルテへの記載をクラークが行うと、医師はしっかりと患者さんと顔を合わせて診療できます。とかく、医師はパソコンの画面ばかり見て患者さんを見ていないと言われる昨今ですから、クラークを置くことは患者さんに満足して帰っていただくためにも、大いに役立つと考えます。

クラークを置くということは人件費を考えれば一人分増えることになりますが、逆に診療時間が短くなれば、スタッフ全体の残業代が減るとともに、スタッフの疲労度も減る(不満も減る)ので、院長、スタッフ、患者さん、すべてにとってプラスに働くと考えます。
また、クラーク業務を習得しているスタッフがいると、受付、会計、検査、診察を含め、各ポジションを総合的に見渡して補助してくれるので、各ポジションが有機的に機能すると共に、各ポジションのスタッフの業務習熟レベルが向上していくのを実感します。人は誰でも自分のポジションで渋滞が起こるのを避けるように行動するのだということがよく解りました。
ただし、クラークはクリニックのスタッフの中では最難関のスキルが求められるポジションです。日々診療だけでも忙しい院長がどうやって教育するかが課題だと思います。
まずは一般論ですが、勤務をしているスタッフの働きぶりを見て、気働きができ、全体を見渡すことができそうな人を教育してみてはいかがでしょうか。すぐにとはいきませんが、閑散期に指導していくと良いと思います。但し、本人の希望もありますので、事前にクラークとして働くことに対する本人の考えを聞いておくことが非常に大切です。また、電子カルテへの入力をお願いするとなれば、フォーマットに従って記載する必要があるので、ある程度のパソコンのスキルが必要です。電子カルテへは、医師と患者さんとの会話の中にあるキーワードも入力する必要があります。従って医師にとって当たり前のキーワードをクラークがキーワードと認識するようになれるかが一つのポイントです。これには少し時間がかかります。そこで、キーワードに関するクラーク用のマニュアルはしっかりと作っておかなければなりません。

私の経験から言えば、スタッフを信じて「この子ならできる」と思えば、その人はできるようになるものです。私のクリニックでできているのですから、皆さんのクリニックでできないはずはありません。私の場合は、札幌の耳鼻咽喉科麻生病院に勤務していた頃、20歳の医療専門学校出身のスタッフが、たった入職半年で立派にクラークの仕事をこなしているのを見て驚きました。「これは医師にしかできない業務」というような自身の思い込みが取り払われた経験が、自分のクリニックにクラーク担当のスタッフを置くという発想の基となっているように思います。
「百聞は一見に如かず」と言いますので、クラークの働きぶりを直接御覧になりたい方は、私のクリニックでは随時クリニック見学を受け付けています。ご興味のある方は、梅華会の医院見学サイトへアクセスしてください。

この回で、20217年~2018年に執筆したコラムは終了となります。ありがとうございました。
今後も、新しいコラムを掲載予定になっております。
ぜひまたHPへご訪問ください。

※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものですので、現在は取り組んでいない運営方法・研修・教育方法などもござます。

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