56.ドクターのキャリア

近頃私は、4冊目の本の出版のために校正ゲラを確認していました。
その4冊目の本では、「どうすればドクターが一人の人間として仕事もプライベートも充実した幸せな人生を送ることができるか?」についての私の考えを書いています。その根本ともいえるドクターのキャリアについて、私の考えをお話ししたいと思います。

■ ドクターという職業

そもそも皆さんは何のためにドクターという職業を選んだのでしょう?学業の成績が良かったので何となくとか、開業医の家に生まれたから、という理由の方もいらっしゃるかもしれません。また、ドクターとして病気で困っている方を救いたい、ドクターとして社会貢献したい、と考えて医学部に進学された方も多いのではないかと思います。かくいう私も、祖母の病気をきっかけに医療というものを意識し、自分も医療を通して社会貢献したいと考えました。
特にM.A.Fに興味を持っていただき、このホームページを見てくださる方のほとんどが、そういう理由から志されたのではないでしょうか。もちろん、不治の病を治す研究をしたくて医学部に入学した方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの場合、臨床医として医療の最前線に立ち、日々患者さんに医療を提供したいと思って入学したのだと思います。

さて、皆さんは医学部でどんなことを学んだのでしょう?基礎課程においては、英語やドイツ語、哲学など医学とは直接関係のない授業もあったでしょうが、授業のほとんどは臨床医になるための知識や技術を学ぶもので、その習得に励んでいたと思います。そして、医学部を卒業してからも大学の医局や系列病院の中で医局制度に縛られ、受け身で働いてきた方もいると思います。
昨今では、研究医制度が変更され、より多様性のある働き方が可能になってきたとも聞きます。とはいえ、我々ドクターは、自分の生き方を自由に選択できるという考えをあまり持っていないように感じます。

■ 開業医は経営者

そうしてドクターとしての技量も磨き、「そろそろ開業しようか」と思った時、院長として必要なマネジメント能力や、リーダーシップは充分に身についているでしょうか?また、クリニックの経営について学ぶ環境は、医学部時代から現在に至るまでにあったでしょうか?開業したとたん、ドクターであると同時に経営者となるのですから、そういったことにも目を向けなければなりません。
医学生すべてが一生勤務医として働くことはないわけですから、本来なら大学の授業でマネジメント論、リーダーシップ論やクリニック経営などについて学ぶ選択ができてしかるべきだと考えます。しかしそれがなかったのであれば、一生勤務医として働くか、はたまた、開業するかを選択する前にクリニック経営について情報を仕入れ、自分はどのようなキャリアを形成するかをじっくり考え、開業の時のために備える必要があるのではないかと考えます。
ここでいうキャリアとは、ドクターとしてだけのキャリアではなく、人としてどのような人生を送るかという意味です。

■ ドクターのキャリアをもっと多様に

一方で、ドクターの人生を改めて考えてみると、特別な職業だからと、自己や家庭を犠牲にして仕事を優先させなければならないのか?とも感じます。そもそも仕事とプライベート、社会生活と私生活というように、区別し優劣を付けるべきなのでしょうか?
私は、ドクターのキャリアをもっともっと選択可能な多様性のあるものと捉え、ドクターは自由に行動して良いのではないかと感じています。私は現在、仕事とプライベートを区別することなく、どちらもとても楽しみ充実しています。仕事はより短時間でより大きな成果を出すことを常に意識していますから、必要であれば家で仕事をすることもあります。逆に、平日でも代診をお願いして家族で海外旅行へ行くこともあります。
また、私は人と交流することが大好きなので、開業医のコミュニティーM.A.Fを作り、志を同じくしたドクター仲間と情報や意見の交換をして、お互いに自分に相応しいキャリアを作る努力もしています。
このコミュニティーの運営は、従来の概念で言うドクターの仕事ではなく、自分の楽しみ、すなわち趣味と言えます。但し、私の法人のミッションである「医療を通して日本の未来を明るくする」に貢献できるという意味では、私の仕事とも言えるでしょう。つまり、「これは仕事、これはプライベート」と分けて考えるのではなく、ワーク・ライフ・インテグレーションを実践して、自分が自分らしく生きるためには何が大事かを基準に行動しているのです。

■ 人生やキャリアを見つめ直して

ワーク・ライフ・バランスについて書いている次の本は、皆さんに私と同じように生活することをお勧めしているわけではありません。ご自分の人生やご自分のキャリアを見つめ直して欲しいと思っているのです。ご自分のキャリアについてよくよく考えた上で、自分はやっぱり医療に邁進する、であっても良いのです。
いずれにしても、開業医の場合、仕事もプライベートも充実させるためには、その前提としてクリニックの運営上の仕組みやルール作りが不可欠となります。この本では、それに関する私や私の法人の取り組み・ルールを紹介しています。本となって書店に並ぶのは今秋の予定で、出版記念の講演会も企画しています。
皆さんとFace to Faceでお会いでき、お互いに刺激し合えたら幸いです。

⇒次回は「57.人生を楽しむための時間を生み出す」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものですので、現在は取り組んでいない運営方法・研修・教育方法などもござます。

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