ここ数回にわたって、理事長である私の考えをスタッフに共有し、チーム一丸となって診療に当たるために私がスタッフに対して行う取り組みなどをお話ししてきました。また、それとは逆の視点で、梅華会はスタッフが喜んで働ける組織でなければならないとも思っています。
■ スタッフが望む組織を目指して
梅華会の理念、ミッション・ビジョン・バリューは、いずれも私が考えているものです。そこに共感し自主的に働けるスタッフを育成しようと様々な取り組みを行っていますが、一方で、「私が打ち出している梅華会の方針は本当に正しいのか」、「多様な取り組みはスタッフに評価されているのか」、「より良い考えが他にもあるのではないか」などを知ることもスタッフを育てることと同じくらい重要なことです。そこで、スタッフを育てる取り組みのご紹介の最終回は、スタッフが望む組織となるために行っていることについてお話ししたいと思います。
スタッフの数が少ないうちはスタッフ一人ひとりの顔が見えていましたから、私の打ち出した方針や取り組みをどのように捉えているのかをある程度感じ取ることができました。しかし、スタッフが20人、30人、40人と増えていく中で、一人ひとりの心の底…「今の業務を楽しくできているのだろうか」、「何か不満はないだろうか」、「法人の成長スピードについていけているだろうか」などを知ることが難しくなりました。各リーダーから部署毎の声を挙げてもらうようにしていましたが、スタッフがリーダーに本音をどこまで話せているのか、リーダーが私に気遣って表現を変えているのではないか、など心配でした。例えば、法人の業務等について改善案を持っているスタッフが、リーダーに素直に話せずに、自分の中に温めているとしたら?
スタッフ一人ひとりからヒアリングをしてみたい。次第にそう考えるようになりました。
■ 組織診断とは
そんな中、他社で導入している「組織診断」という取り組みを知る機会があり、梅華会でも導入することを決めました。
組織診断は、スタッフに対してアンケート形式で質問を投げかけ、それに対する回答を集計して組織を診断するというものです。患者さんに対するアンケートのスタッフ版と言えるでしょう。組織の中で仕事をしていると、上司と部下のコミュニケーションが大切なのは言うまでもありませんが、部下からすると上司に意見するのは少なからず抵抗があると思います。あるいは、上司には思いも及ばないようなところで部下は問題にぶち当たり、解決できずにいるかもしれません。
そのような課題をクリアし、梅華会がより良い職場環境を構築するために、組織診断を使ってスタッフからのメッセージを受けとめることにしたのです。今まで直接話せなかった事柄でも、組織診断という紙媒体を挟むことで意見を表明することができるのではないかと考えました。また、この組織診断のアンケートはスタッフが表現しやすい形式になっていると感じました。
このような形で得られたアンケート結果は、トップである私がどのような行動をとるべきか、どこを改善していくことで職場環境が向上するのかについての一つの指針となります。例えば、教育の重要性を認識している私が、さらなる教育環境をスタッフに提供しようと考えていたとします。しかし、多くのスタッフは現時点での教育に手一杯で、これ以上の教育は進めてほしくないと思っていることがアンケートから読み取れたら、私はその舵取りを変更する必要がある、というわけです。
この例では、さらなる教育プログラムを提供するよりも、この組織には、教育を受けることによって得られるスタッフ自身の成果や、教育環境の充実の必要性などをスタッフに丁寧に伝えることのほうが必要とされている事がわかります。
教育の重要性を理解したスタッフたちから教育に関するニーズが出てきて、自ら学ぶ姿勢になった時にこそ、効率よく教育の成果が出るというわけです。
この組織診断は、単にアンケート結果の集計を活用するだけではありません。アンケート結果は、項目ごとに重要度・満足度・積極度がグラフ化されています。このグラフから得られる情報で最も重要視しなければならないのは、スタッフは重要度が高いと思っているのに満足度が低い項目です。
この項目に関して、スタッフたちはとても大事だと思っているのに満足してないわけですから、まず改善しなければいけません。逆に、満足度が高く重要度は低い項目に関しては、すでに満ち足りているわけですから、手当てする必要がないのです。
■ 組織診断結果の活用表
組織診断の結果を受けて、梅華会では、スタッフにとって重要度が高いけれど満足度が低い項目にフォーカスして、満足するためにはどうしたらよいか全体ミーティングを行います。例えば、ある年の組織診断では、適材適所という項目に満足度が低いと感じているスタッフが多いことが分かったのですが、全体ミーティングでは、まず、適材適所とは何に関しての適材適所なのかを明らかにすることから始めました。
受付・会計・クラーク…といった部署に関する適材適所なのか、分院の勤務体系に関する適材適所なのか、あるいはリーダーやサブリーダーといった役職に関する適材適所なのかを明らかにしたのです。スタッフたちの意見を聞くうちに、問題の本質の一端を知ることができました。同時に、その中で皆が満足するためにはどうしたらよいかを本音で話し合う良い機会を設けることができました。
とは言え、やみくもに組織診断の結果ばかりに目を向けても現場で働くスタッフの意見のすべてを反映できるものではありません。組織診断は組織としての舵取りのひとつのツールとして皆の意見を吸い上げるために活用することが大切です。
私はスタッフがクリニックに相応しい人材に育つことを望んでいます。であるなら、スタッフたちの働くクリニックをスタッフたちの不満のない、働く意欲の出る職場にしていきたいと強く思っています。
⇒次回は「44.クリニックのホームページを考える」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものですので、現在は取り組んでいない運営方法・研修・教育方法などもござます。
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