30. リーダーの育て方

■ リーダーはなぜ必要?

院長が孤軍奮闘から脱するためには、各部署にリーダーを置くことが必要です。なぜなら、院長が診察している間は、受付や会計、検査、採血や点滴など、自分自身で指導することはできないからです。また、クリニックの運営に関してもその場で判断することはできません。
例えば、かつて大学病院で主任クラスで活躍していた看護師さんがいたとしても、即リーダーとしてクリニックの診察現場にお迎えすることは難しいでしょう。大学病院とクリニックでは受診される患者さんの病気の程度も提供する治療方法も違い、自ずと適切な接し方が異なると思うからです。
私は、大学病院では病気と向き合う、クリニックでは患者さんと向き合うという大きな差を感じています。そして、リーダーとして何より大事なことは、個人の技術の善し悪しではなくて、院長と理念を共有し、一緒にあるべきクリニックの方向を向いているかどうかだと思います。良いリーダーをクリニックに配置するには、リーダーに育てようと思えるような人材をいかに採用し、いかに教育していくかが肝となります。私が試行錯誤して身につけた方法の一部をご紹介します。

■ リーダーの選定基準

院長はスタッフの誰よりも医療に関する知識が多く、能力も高いのは、考えるまでもなく当然のことです。そのため、時間を掛けてスタッフに教えるより、自身で対応したほうが手っ取り早く正確だからと、ついついスタッフの業務も自身で行ってしまいがちです。私も開業当時はそうでした。見ていられなくてついつい口を挟んでしまいました。しかし、クリニックが発展し患者さんが増えてくることを望み、胸の内にその想定があるのであれば、スタッフ自身の責任で業務を遂行させるための教育を徐々に行っていかなければなりません。
一段ずつ階段を上るように、フォローしながら業務に関する権限をスタッフに移していかなければならないと思うのです。
それにはまず手始めに、リーダーとして相応しい人物を選ぶことが必要です。
この基準は、経験年数や技術の高さではありません。リーダーの選定で一番大事な基準は、院長の理念、即ちクリニックの理念をしっかりと理解し、それに向かって自身も行動しているかどうかです。
チームリーダーは、クリニックの理念に基づいて行動し、チームメンバー全員のことを思いやる気持ちの持ち主であることが絶対に必要です。必ずしも現場の仕事をすべて熟知している必要はなく、それよりもクリニックという組織を、有機的に機能させることができる人物がリーダーとしての素養を備えていると考えます。たとえ個人の能力が卓越していたとしても、独りよがりで集団の中で孤立しているようでは、決して良いリーダーには成りえないでしょう。

私のクリニックでは、しばらく一緒に働いて、またミーティングや普段の行動を見てリーダーに相応しいと思えたスタッフには、文章でリーダーとしての職務定義を共有しています。そして、本人がその定義を読んで共感しているかどうかを見極めた上で、そのスタッフをリーダーに就任させています。なお、新卒採用スタッフがリーダーに育つにはかなりの時間がかかります。ゆえに、開業して間もない時は、集団をコントロールするマネジメント経験の有無を考慮して、中途採用を考えることも必要です。

リーダーの選定基準

■ リーダーの役割①

リーダー就任後の仕事には、今までとは異なったリーダーらしい発想や目線が求められます。
そのような立場で働くと、いわゆる中間管理職的な、院長とスタッフの間で板挟みのストレスを感じることもあるのではないかと思います。院長はリーダーに対する支援体制を準備する必要があるでしょう。例えば、他のスタッフ以上にリーダーとはしっかりコミュニケーションを取って自分の考えを伝え続けると同時に、リーダーの気持ちや悩みを受けとめフォローすることが重要です。

私がリーダーに求める役割は主に2つです。1つは、自分の持ち場の仕組みづくりやマニュアルづくりを行うことです。クリニックの業務は多岐にわたりますが、例えば卓越した技術を持つ受付や看護師が居たとしても、その能力はそのスタッフのみに存在するだけで、彼女が居なければ業務が滞ることになります。組織としての能力が高いことにはなりません。しかし、属人化している技術でもそれをマニュアル化し、他のスタッフも習得できれば、その技術は組織の能力となります。その業務のマニュアル化の仕事をリーダーにお願いしているのです。

リーダーの役割

■ リーダーの役割②

リーダーのもう一つの役割は、院長である私の言葉を翻訳することです。
翻訳とは、私の想いを切り口を変えて部下である他のスタッフに伝えるということです。私の法人ではミッションやビジョンを掲げ、私もそのことを常に口にしていますが、とても抽象的な内容です。とかく、院長が突き詰めて考えて発する言葉は抽象的であることが多いです。いつもコミュニケーションを取っているリーダーにはその内容が理解できていても、末端で働くスタッフにはイメージが湧かない……そのようなケースが多いと感じます。そこで、リーダーにはそれをより具体的に伝えてほしいと思っています。
例えば、私の法人のミッションの「医療を通じ日本の未来を明るくする」であったら、「地域の皆さんの病気を減らして、健康で楽しい社会生活を送っていただく」や、「日々健康で社会生活を送る人を支援する」など、リーダーに簡単にイメージできる言葉に置き換えてもらい、スタッフに常に伝えてほしいと思っています。そうすることで、クリニックの理念が末端のスタッフにまで徐々に浸透していくと考えるからです。
リーダーを育てるのは一筋縄ではいきません。焦らず、でも時間がかかるがゆえに、もし取り組んでいないのであれば、すぐに着手し力を入れるべき院長としての仕事だと思います。

⇒次回は「31.患者さんの待ち時間対策」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものです。

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