17. 権限委譲

■権限委譲の必要性

前回の「時間の管理」のお話の中で、「院長以外でもできることはスタッフに任せる」というお話をしました。とはいえ「理想には違いないけれど任せきりにするのは心配だ」「抵抗がある」という方は少なくないと思います。そこで今回は、権限委譲についての私の考えをお話してみたいと思います。

私自身も開業したての頃は全て私がスタッフに指示を出し、足りないところは何から何まで自分でやっていました。それは、今のようにクリニックを開業した目的や将来の目標を見据えて仕事をしていたのではなくて、ただただ目の前の仕事に追われていたことの表れだと言ってもいいでしょう。クリニックの運営が安定し、分院を作ろうかという頃、一人では、何から何まで目を届けることはとても不可能だと気づきました。
今までなら、スタッフの仕事環境を知りたいと思えばすぐにスタッフと面談ができました。しかし、分院ができスタッフが増えるとそういう訳にはいきません。そこで、看護師と医療事務スタッフの仕事を明確に区分して各ポジションにリーダーを選定しました。クリニックを組織として運営するよう改革する必要が出てきたり、私の代わりにスタッフのマネジメントができる人材を採用する必要が出てきたのです。

■各ポジションのリーダー

私の経験から申し上げれば、クリニックの運営が順調になってくると、各ポジションのリーダーを託せる人物は誰だか何となく分かってくるのではないかと思います。はっきりリーダーと決めた訳ではないけれど、皆からの信頼を得ていたり、リーダーシップを発揮しているスタッフが出てきていて、それで仕事が回ってきているとわかってくるのです。
そんな時は、仕事が回っているからいいと考えるのではなく、この仕事に関してはAさんが責任者、こちらの仕事に関してはBさんが責任者と明確に示すべきです。
そのスタッフに権限を与えることで、そのスタッフの自立を促すと同時に、最後まで仕事を全うするという責任感をもって仕事に当たってくれるようになります。それぞれの仕事に対する責任者を決めておかないと、結局あなた任せになることがあり、仕事のクオリティを下げてしまうことにも繋がりかねません。

私のクリニックでは、各ポジションのリーダーには、「リーダーの心得」という文書を渡しています。その心得の一部をご紹介します。例えば「月に1冊以上の本を読み、常に情報のインプットを心がける」という心得があります。クリニックの医療理念には、常に学ぶ、自己研さんに励むという理念がありますので、リーダーとして人の上に立つ以上、率先して学ぶというクリニックの理念に則った姿勢を心がけてほしいという私の想いが込められています。また、部下であるスタッフの成長をサポートするために、各スタッフが掲げることを義務付けられている目標達成のためのフォローを月に1回するという役割も心得の一つです。なお、リーダーの育成については回を改めてお話ししたいと思います。

各ポジションのリーダー

■マネジメント業務のサポート人材

各ポジションのリーダーを選定する一方、一般的なクリニックのスタッフとして考えられる人材以外に、数が増えたスタッフのマネジメント業務を私の代わりとなって行ってくれる人材も採用しました。
経営コンサルタントにスタッフマネジメントをお願いしていた時期もありました。しかし、マネジメント業務こそ、理念を共有する社内スタッフで賄うべきという信念が私の中にありました。理念を共有すると言葉で言うのはたやすいですが、そういった人材に出会うのはなかなか大変ですし、簡単なことではありません。しかし、トップの考えを真に理解してくれるスタッフが周りにいるかどうかは、組織の成長に大きく影響を与えると断言できます。私自身も苦労の末、その人材と巡り合うことができ、マネージャーとして活躍してくれている現在、私たちの医療法人の組織がより強固になったと実感しています。
私の右腕ともいえるこのマネージャーは、私の言葉を翻訳し部下に伝えてくれます。ここでいう翻訳とは、私が言った言葉をよりかみ砕いて説明し、比喩を用いて理解しやすくして部下に伝えてくれるということです。このことにより、私が学会への出張や講演会で留守の時も、自分の趣味や家族との旅行で長期の休みを取る時も、代診を立てることで梅華会の理念に沿った診療を続けることができます。また自分は安心してクリニックを空けることができます。

マネジメント業務のサポート人材

■ホームぺージでの情報発信

自分のクリニックはまだ小さいからという理由で、リーダーの養成やマネージャーの採用を諦めてほしくありません。本気でクリニックを繁栄させ、家族と過ごす・趣味を楽しむ・ご自身のための時間も持ちたいとお考えなら、例えば、クリニックのホームページに採用サイトを設けるなどして、このクリニックではどんな人材を求めているかをどんどん発信すべきです。採用後の理念共有の過程にあっては難しいことも多々あります。ですが、人対人として密なコミュニケーションを通じて信頼を深め、心を割って想いを伝えていけば、それがスタッフのやりがいに繋がっていくと感じています。
人材登録会社に頼っていたのでは、ご自分と理念を共有できる人材に巡り合う確率はとても低いと考えます。

ホームぺージでの情報発信
⇒次回は「18.エンパワーメント」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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