「勤務医時代にも患者さんとコミュニケーションを行っていたのだから、開業したって大丈夫」と思っているドクターは意外と多いのではないでしょうか。
開業医の患者さんとのコミュニケーションの取り方は大病院のドクターの取り方と異なるので、そのこともお話ししたいのですが、まずそれ以前に、開業すると必ずと言っていいほどつまずき、そして、最も苦労するのがスタッフとのコミュニケーションです。そのことについて私の考えをお話したいと思います。
■解決策より共感?
かくいう私も、開業当初、女性ばかりのスタッフの面々と私の関係が良好であったとはお世辞にも言えません。
スタッフとの一対一の面談では、遠慮、いえ、ある種の恐れを感じ、本当に心を開いて話ができませんでした。ですから、採用時の面接だって、相手のことを知ろうとか、自分やクリニックの考えを知ってもらおうとかではなく、給与や待遇などの一般的な話に走ってしまいました。そして、相手が私のクリニックで達成したいこととか、得たい感情とか、応募してくれた人の人間性に触れる内容といった肝心なことまで話を進めることができませんでした。
看護師さんなどの女性スタッフと接する時に、相手の心理面まで考慮して接することは、開業医に比べ勤務医はさほど必要とされなかったのではないかと考えます。
コミュニケーションを取るうえでどうしてもうまくいかなくなったら、医局長や看護師長、あるいは事務方に相談したり、解決してもらったりすれば、問題解決できたからです。しかし、開業したとたん自分が経営者となるわけですから、それらすべてが自分自身の肩に掛かってきます。自分vsスタッフだけではなく、スタッフvsスタッフの行き違いにも介入しなければならない場面も出てくるわけです。
開業医の集まりに参加すると、「せっかく採用したのにスタッフがなかなか居ついてくれない…」といった愚痴話も、どこからともなく聞こえてくるのが現状です。
2008年の開業から私が経験から学んだことの一つで、これから開業医となる、あるいは心機一転開業医となった皆さんにぜひとも覚えていてほしいことは、女性と男性とは物事を相談した時に相手に求めるものが違うのではないかということです。
「男性の脳は解決脳、女性の脳は共感脳」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?
何かしら問題を抱えている女性から相談されたら、皆さんはどうなさいますか?おそらく多くのドクターが、解決するにはこうしたらいいのはないか、あるいは、解決するために私がこうしましょう…といった解決策をそのスタッフに示されるのではないかと思います。しかし、現実には、相談した女性スタッフは何も院長に解決策を教えてほしくて相談したのではないことが多いのです。
私もあるセミナーでこの話を聞いたとき、にわかには信じられませんでした。しかし、相談者が女性の場合は、ただ単に「そうなの、それは大変だったね」と共感してねぎらってほしかっただけということが多いのだそうです。相談を受けて解決のためにと私たち院長が行動を起こすと、かえってあだとなり、良かれと思って行動したことがスタッフの反感を買ってしまうことさえあるのです。このことは、しっかり頭に入れておいた方がいいと心から感じています。
■コミュニケーションのための様々な手段
さて、開業当初、私はスタッフとのコミュニケーションを図ろうと、月に1回水曜日の午前診療が終わった後にランチ会を開いていました。
そこで他愛のない雑談をしながらお互いを知り、お互いの関係性を深めようと努力していました。このランチ会では、仕事の話ばかりではなく、プライベートなことでも何でも、その時にお互いに話したいことは伝え、皆で話し合いました。回を重ねるごとに信頼関係ができてきたように感じます。私もスタッフもチーム全員が、公私ともに満たされ幸せであることが、仕事にも好影響を与えてきたと思っています。
分院を含めて6院となった今、スタッフの数も多くなり残念ながらランチ会はできなくなりました。そこで、お互いを知るための新たな手段であるスタッフミーティングと社内報を使ってコミュニケーションを図っています。スタッフミーティングに関しては、次回に詳しく書きますので、ここでは社内報について少しお話ししたいと思います。
■社内報の役割
社内報には、新卒で入ってくるスタッフへ梅華会の理念や文化・風土を伝えるツールであるという役割があります。また、忙しい日常の診療以外で伝えたいメッセージを発信するツールでもあります。
社内報には、クリニックの目標・目的達成のための院内で行われている様々な取り組みを改めて明示し、その取り組みの必要性を伝え、クリニックのベクトルを整える役割を持たせています。
クリニックの全員が、共有された理念・目標を理解し、同じ方向性に向かって行動し、患者さんに接することで、患者さんのクリニックに対する評価がアップします。例えば、スタッフが患者さんに思いやりのある言葉掛けを行うことで、患者さんからお礼の言葉をいただけることもあり、それはスタッフのさらなるモチベーションアップに繋がっています。そんな素敵な話も社内報で紹介し共有するようにしています。
同じ想い、同じ感動をチームで共有する。このことが院長とスタッフ、スタッフ同士のより良い信頼関係を築く一歩だと確信しています。
⇒次回は「13.スタッフミーティングのコツ」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。
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