5. 異業種からの学び②

第4回では歯科クリニックや美容院からの学びを紹介しました。学べる業種は他にもあります。
例えば、自動車のディーラーやホテルです。一見医療行為とはまったく異なる業種ですから、開業医にとっては縁のない世界と思われるでしょう。
しかし実は、お客様にサービスを提供するという点では、大いに学ぶところが多いと私は感じています。そこで、私が実際に見学に行ったり、実際にービスの提供を受けたりして学んだことを紹介します。

■自動車ディーラーに学ぶ

皆さんは、高知県にあるネッツトヨタ南国店をご存知でしょうか?
ネッツトヨタ南国は知る人ぞ知るディーラーさんです。全国のトヨタ販売会社の中で顧客満足度が12年連続で断トツの全国一なのです。
四国地方の小さなディーラーさんのどこにそのノウハウがあるのか、社長である横田英毅さんが書かれた『会社の目的は利益じゃない』という本を読んだときから、興味と好奇心に駆られた私は見学に伺いました。

その本の中で最も心に響いた言葉は「一番大切なことは、一番大切なことを一番大切にすることである」という言葉です。経営というととかく利益に目が向きがちです。
しかし本当は会社で働く人たちが得たいと思っていることは利益ではなく、働く中での人と人の繋がりや、信頼関係、働くことが生きがいと思えるかであって、働く人たちが如何に多くのメリットを得られるかに注力することが経営上最も重要だとおっしゃるのです。
そう考えて経営することで、従業員は横田社長が指示を出さずともお客さんを満足させたり、感動させるにはどのようにしたらいいだろうか?ということをみんなで考えるそうです。
残業という概念もなく、ただお客さんのためにみんなで熱く討論を交わし、そしてそれを実行するそうです。そして実際にお客さんに喜んでもらうことが、社長や現場スタッフの喜びとなっているのです。

そんな内容の本を読み、その実際を知りたくなり、私は高知まで出かけて行き勉強させてもらいました。
そこで、私がまず衝撃を受けたのは、ネッツトヨタ南国さんの新卒スタッフの採用方法です。
どんな企業やクリニックでもスタッフ採用を行う際は面接を行うと思いますが、ネッツトヨタ南国さんでは、その面接の回数が半端ありません。会社に来てもらって、会社やスタッフの仕事ぶりを見てもらい、そして対話をする。これを何回も何回も行うのです。
面接を繰り返すことで、社長がその人物の特性をしっかり把握できるとともに、スタッフ候補者自身も職場が自分に合うかどうかを判断しやすくなるというのです。一度きりの面接ではお互いにうまくマッチングできるか確信が持てないけれど、回数を重ねることではっきりしてくるというのです。この経験に裏付けられた採用方法の本気度に心打たれた私は、私のクリニックでもスタッフ採用時の面接の回数を増やしました。
私のクリニックでも、私の理念に共感する同志を探し求めるため、面接の回数を重ねて行うスタッフ採用が定着してきています。
同志を集めること=私のミッションの達成に繋がると確信しています。

経営者としての能力

■一流ホテルに学ぶ

私は、クリニックも大きな意味ではサービス業だと考えています。
なぜなら、私たち医師は、医療というサービスを患者さんというお客様に提供して対価をいただいているからです。
サービス業としてまず思い浮かべるのはホテル、しかも一流のホテルなら学べることは多いだろうとの考えから、梅華会では毎年末、忘年会を兼ねた研修会をザ・リッツ・カールトン大阪で行っていました。
1年に一度、慰労も兼ねておいしい料理を堪能してリッチな気分を味わうというのが主目的ではなく(少しはその意味もありますが)、スタッフの一人ひとりにサービスに定評のあるザ・リッツ・カールトンの一流のサービスに触れてもらうことで、サービスとは何かを考えてほしいと思ったから、毎年、そこで忘年会を行っていました。(新型コロナウイルスの影響で一時開催中止)

最初は一流ホテルの荘厳な雰囲気に圧倒されて馴染めずにいたスタッフもいました。
しかし回数を重ねることで自らがその雰囲気に溶け込め、臆することなく雰囲気を楽しみ、次第に今まで見えなかった一流のサービスの本質を見ることができるようになってきたと思います。細かな動きや気遣い、思いやりなどをそこで学んだスタッフは、クリニックに戻って、日々の業務に活かしていると感じています。

私は経営者として、ザ・リッツ・カールトンの従業員が常に携帯しているサービスの基本方針が書かれているクレドカードを梅華会でも採りいれ、発展形としてクレド手帳を作成。それを各スタッフが携帯しています。
クレドとは、ラテン語で「信念」「信条」といった意味を表します。ザ・リッツ・カールトンでは、クレドが働いているスタッフ全員に浸透し、各々がそのクレドに沿って自分自身で考えて接客していました。何かトラブルがあるたびに上司の判断を仰いていたのでは、迅速で適切な対応は難しいからです。
クレドを拠り所として各々がその裁量内で的確に行動を起こしてくれることで、梅華会がチームとして強化され、一流のサービス=一流の医療を、お客様=患者さん/span>に提供できると確信しています。

経営者としての能力

■一流テーマパークに学ぶ

一流テーマパークとは、皆さんご存知のディズニーランドです。実はこのディズニーランドには、ディズニーアカデミーという研修コースがあります。
このアカデミーに入ると、ディズニーランドのスタッフが社員としての心構えや姿勢などを裏の裏まで見せてくれます。
梅華会スタッフには若い女性が多いので、同じ研修をするなら、喜んで参加してもらい多くのことを学んでもらえればとの思いで、多少費用は高めですが、ここで研修を行うことを決めました。

ここでの研修を通じて多くの学びがありましたが、一番の学びといえば、スタッフ一人ひとりが本当に心の底から楽しんで仕事をしているということです。自分が楽しみながら、その上でお客様を満足させたり、感動させたりしようとしているホスピタリティーに感銘を受けました。
梅華会のあるスタッフが気づいたことですが、お客様の年代に合わせて話し方を変えているそうです。お年寄りには敬意をもって、お子さんに対しては子どもの話し言葉で目線を合わせて話しかけていたのです。

職場に戻ったスタッフたちはこのような気づきを持ち寄って、梅華会にとってそのまま使えるものか、あるいはアレンジが必要か…何度も何度もミーティングを重ねました。そのことで、各スタッフが自ら考えて行動するというスタンスで行動するきっかけや習慣を得ることができたと感じています。
ホテル、テーマパーク・クリニックでサービスの在り方はそれぞれですが、一人ひとりが真剣に、目の前の顧客に対して、どうすれば感動していただけるのか、どうしたら喜んでくださるのか、どうすれば提供される価値を感じていただけるのか…そのことを考え続けていく意義は共通していると考えます。

⇒次回は「6.開業するために必要なチーム」
※2017年に執筆開始をしたコラムに加筆修正をしたものです。

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