■ 比較優位の原則
前回は、ドクターのキャリアについて私の意見をお話ししました。
自分がドクターとしても一人の人間としても自分の人生を楽しむためには、私は、日々の業務に追われるだけでなく積極的に自分の時間を生み出す努力をする必要がある、と考えます。とはいえ、人間に与えられた時間は誰にも等しく1日24時間です。その24時間をどう使うかに、自分の時間が持てるどうかがかかっています。
皆さんは「比較優位の原則」という概念をご存知でしょうか。イギリスの経済学者・デヴィット・リカードが提唱した概念です。一国の経済で言えば、他国と比較して得意としない産業は輸入に頼ってでも得意とする産業の生産に力を入れるほうが多くの財を手に入れることができるため、お互いに得意な産業に力を入れる、つまり国際分業することでお互いの国が利益を得ることができるという理論です。
分かりやすく説明する際によく例として挙げられるのは、アインシュタインとその秘書の話です。アインシュタインは物理学ばかりでなくタイピングも秘書より得意かもしれない。けれど、限られた時間の中では、タイピングは秘書に任せて、アインシュタインは物理学の研究に全ての時間を費やした方が、大きな成果が得られるという話です。私は、これは何もアインシュタインや国の経済に関してだけでなく、小さなクリニックの経営にも当てはまる理論だと考えます。
■ ご自分の時給、ご存じですか?
皆さんはご自分の時給を意識したことがあるでしょうか?学生時代やインターン時代にアルバイトをした経験がある方はその当時少しは意識していたかもしれません。しかし一人前のドクターとして忙しく診療していると、時給という概念を持って仕事をするということはないと思います。
アメリカの実業家でビジネスコンサルタントのブライアン・トレーシーが、時給を簡単に算出する方法をセミナーで教えてくれました。それによると自分の年収を2000で割ると時給の概算が出せるそうです。そこで、皆さんの年収が仮に2000万円だとすれば、時給は約1万円だということになります。他府県に比べて高い東京都の最低賃金は2017年9月時点でも958円ということですから、それに比べて10倍以上の時給を手にしているとすれば、皆さんはその時間に何をすればいいのか?を考えなくてはなりません。
例えば、クリニックの診療が開始する前に出入口の鍵を開けたり、PCを立ち上げたり、レジに釣銭を補ったりする仕事は時給1万円に相当する仕事でしょうか。開業するとやってくる色々な製薬会社のMRさんと面談して他愛もない話をすることには時給1万円の価値があるのでしょうか。
私はMRさんとの面談は、そう頻繁には行っていません。MRさんは新薬の治験結果など私達にとって有効な情報を与えてくれることもあります。しかし一方で、その日の業務日報に「○○先生と面談」と記入したいがためだけにアポを求めてくる方もいます。そこで、私はMRさんなど出入りの業者さんのアポは秘書を通して受けることとし、面談の内容を秘書が聞き取った上で必要な場合のみお会いするようにしています。
とはいえ、経営を潤滑に行うためには出入りの業者さんとの信頼関係を築いておく必要もあります。そこで私の法人では、年2回、医療機器メーカーや医薬品の卸業者さんも含めて、皆で集まって懇親会を開いています。懇親会は、多くの企業で行われているように、ただ飲み会を催すのではなく、京セラドームを借り切って野球大会を開いたり、豚の丸焼きパーティーを行ったりなど、趣向を凝らしています。そうすることで、私と業者さんとの信頼関係ばかりでなく、スタッフと業者さん、あるいは業者さん同士が仲間意識を持ってくれれば、いざというときのリスク管理にもなるのではと考えております。
こういった取り組みにより、昼休みの30分なり1時間がMRさんなどとの不必要な面談に奪われることがなくなります。それが1ヵ月、1年と積み重なれば、大きな自分の時間を得られることに繋がるのです。
■ 痛感する時間の重み
教育学者の斉藤孝さんが、その著者の中で30歳を過ぎる頃になって時間の価値を感じるようになったと書いています。
正に、私自身も歳を重ねるごとに時間の大切さを感じるようになっています。開業し、分院を持ち、MAFを立ち上げる、すると自分の役割が多くなればなるほど時間の重みが感じられるようになったのです。どんなに頑張っても一人の人間に与えられた1日の時間は等しく24時間です。であるなら、どうやって有効にその時間を使うかが重要になるのです。そのため、私は家族や親しい友人と過ごす時間は例外として、それ以外に使う時間は、常にその価値を意識して行動しています。
ワーク・ライフ・バランスに悩む皆さんにも、やるべきことに順位を付けて時間の使い方を工夫し、プライスレスの自分や家族のための時間を生み出して欲しいと思います。
今週出版予定の書籍に、その辺りを詳しく書いていますが、このコラムでもそのポイントを少しずつお伝えしようと考えています。
⇒次回は「58.災害時の対応」
※2018年に執筆したコラムに加筆修正をしたものですので、現在は取り組んでいない運営方法・研修・教育方法などもござます。
開業医コミュニティM.A.Fではクリニック経営についての情報発信、セミナー開催など行っております。最新のM.A.Fからの情報を得るために無料のメールマガジンにご登録ください。