67. 節税対策 

 勤務医時代にはおよそ縁がなかった「節税対策」、そもそも自分は所得税をいくら徴収されているのかすら把握していないのが普通の勤務医だと思います。ところが、開業医となって一度でも確定申告を経験すると、とたんに見逃せない関心事になります。とくに開院したばかりのころは、クリニック運営も手探り状態、経営の先行きが見通せず、スタッフも居ついてくれない……ご自身の収入も気持ちも揺れ動きがちなこの時期に、納入しなければならない所得税の額にほとんどの方は驚くことのではないかと思います。

税理士さんや会計士さんに入っていただいていれば、節税についてもアドバイスをいただけるのですが、開業間もないころはその余裕もない方も少なくないと思います。そこで、まず、開業医のための所得税の節税手段の基本的なお話を取り上げてたいと思います。

 

一言で言うと、節税方法は大きく2つです。所得税額は「課税所得×税率」で計算されます。つまり、「課税所得を減らす」か「税率を下げる」かのいずれかで税金を下げることが可能となるわけです。

 

 まず1つ目の「課税所得を減らす」要因となるのが、所得からマイナスできる「必要経費」です。必要経費が増えれば増えるほど、課税所得は減るのですから、必要経費に当たる物品の購入にかかる費用は一つたりとも漏らさず計上することが大切になってきます。

 あまりにも当然の話で??と思われているでしょうが、どんなものが必要経費に当たるのか、皆さんはしっかり理解されているでしょうか? 例えば、クリニックを賃貸物件で開業した場合はその家賃、設備の維持費、スタッフの給与など……。これらは皆さんもすぐにピンとくる必要経費でしょう。でも、毎月ほぼ一定、当然経費として計上しているものばかりです。

 私がここで漏らさず計上しましょうと言っているものは、必要経費に当たるかどうかがあいまいなもの「交際費」「福利厚生費」「自宅で使う備品」です。これらは必要経費として認められる範囲がハッキリしていないてんが共通しています。例えば、医薬品メーカーなどの出入りの業者の方と食事会をした場合、これらは仕事上の付き合いとして必要経費として認められることがほとんどです。

 では、地域の開業医仲間と飲み会に行った場合はどうでしょう? 多分、それは無理だろうと思われると思いますが、目的が情報交換のためとか、経営相談のためという理由であれば、必要経費として認められる場合があります。このあたりは税理士さんや会計士さんの専門とするところですが、私の経験からお話しすれば、その飲み会とご自身のクリニック経営の関連性と妥当性を説明できるかが、必要経費として認められるか認められないかのポイントだということです。つまり、その飲み会がクリニックの業務に確かに関連があり、かつ一般常識に照らし合わせて費用が妥当な金額であることを税務署にきちんと説明できれば経費として計上できるということです。

ということは、皆さんが参加する学会や講習会への交通費や宿泊費はもとより、スタッフを連れて懇親会を行ったり、慰安旅行へ行ったりすることも、経費として計上することが可能になってきます。

また、自宅に持ち帰って事務処理をする場合、自宅用にと購入したパソコンや机も経費として計上できるわけです。

  勤務医時代、まったくと言っていいほど気にしていなかった領収書、支払ったあとはしっかりいただいて、忘れずに持ち帰りましょうね。

 

 ここまで読まれた皆さんの中には、もうすでにきちんと処理されている方もいらっしゃるでしょうし、とはいえ、大した節税にはならないと思われている方もいらっしゃると思います。

 もっと大幅に税金が安くなる方法はないのかというと、2つ目の税率そのものを低くするという方法がこれに当たります。クリニックを医療法人化して税率そのものを一気に下げてしまうと、必要経費をコツコツと計上し、課税所得を減らすよりもグンと節税できるのです。

日本の所得税は皆さんご存知のように、収入が多ければ多いほど税率も上がる累進課税制度です。個人経営クリニックだと、1年間収入が1,800万円を超えた分には40%の所得税が、4,000万円を超えた分には45%の所得税がかかります。しかし、医療法人の所得にかかる法人税は、収入が800万円以下の分には15%(2019.4.1以降は19%の予定)、800万円を超えた分には上限なしで23.4%(2018.4.1以降は23.2%)です。つまり1,800万円以上の儲けがあるクリニックは、法人化することで税率を大幅に下げられるというわけです。

とはいえ、法人となると、理事会を設立したり、会計や事務処理が複雑になるなどのデメリットもあるため、節税のみを目当てに気安く法人化することはお勧めしません。少なくとも事務方となる右腕が育って、法人に関する事務は任せられるようになってからがよいと思います。クリニックの法人化に関するメリット・デメリットは別のコラムで取りあげていますので、そちらを参照してください。