58. 人生を楽しむための時間を生み出す

 ドクターのキャリアについて私の意見を前回お話ししましたが、自分がドクターとしても一人の人間としても自分の人生を楽しむためには、日々の業務に追われるだけでなく積極的に自分の時間を生み出す努力をする必要があると考えます。とはいえ、人間に与えられた時間は誰にも等しく1日24時間。であるなら、自分の時間がもてるかどうかはその24時間をどう使うかによるということにかかっています。

 皆さんは「比較優位の原則」という概念をご存知でしょうか? イギリスの経済学者・デヴィット・リカードが提唱した概念で、一国の経済で言えば、他国と比較して得意としない産業は輸入に頼ってでも得意とする産業の生産に力を入れるほうが多くの財を手に入れることができるのだから、お互いに得意な産業に力を入れる、つまり国際分業することでお互いの国が利益を得ることができるという理論です。

 分かりやすく説明する例としてよく挙げられるのは、アインシュタインとその秘書の話です。アインシュタインは物理学ばかりでなくタイピングも秘書より得意かもしれないけれど、限られた時間の中では、タイピングは秘書に任せて、アインシュタインは物理学の研究にすべての時間を費やしたほうが、大きな成果が得られるという話です。私は、これは、何もアインシュタインや国の経済に関してだけでなく、たとえ小さなクリニックであったとしてもその経営に当てはまる理論だと思っています。

 皆さんはご自分の時給を意識したことがあるでしょうか? 学生時代やインターン時代にアルバイトした経験がある方はその時は少しは意識していたかもしれませんが、一人前のドクターとして忙しく診療していると時給というものを考えて仕事するということはないと思います。アメリカの実業家でビジネスコンサルタントのブライアン・トレーシーが、時給を簡単に算出する方法をセミナーで教えてくれたのですが、それによると自分の年収を2000で割るとおおよその時給が計算できるそうです。そこで、皆さんの年収が仮に2000万円だとすれば、時給は約1万円だということになります。他の府県に比べて高い東京都の最低賃金は2017年9月時点でも958円ということですから、それに比べて10倍以上の時給を手にしているとすれば、皆さんはその時間に何をすればいいのか‥‥を考えなくてはならないと思います。

 例えば、クリニックの診療が開始する前に出入口の鍵を開けたり、PCを立ち上げたり、レジに釣銭を補ったりする仕事は時給1万円の仕事でしょうか? はたまた、開業するとやってくるいろいろな製薬会社のMRさんと面談してたわいもない話をすることは時給1万円の価値があるのでしょうか?

 私はMRさんとの面談はそう頻繁には行っていません。MRさんは新薬の治験結果など私たちにとって有効な情報を与えてくれることもあるのですが、一方で、その日の業務日報に「○○先生と面談」と記入したいがためだけにアポを求めてくる方もいます。そこで、私はMRさんなど出入りの業者さんのアポは秘書を通して受けることとし、面談の内容を秘書が聞き取ったうえで必要な場合のみお会いするようにしているのです。

 とはいえ、経営を潤滑に行うためには出入りの業者さんとは信頼関係を築いておく必要もあるわけですから、私の法人では、年2回、医療機器メーカーや医薬品の卸業者さんも含めて、皆で集まって懇親会を開いています。懇親会は、普通よくあるように、ただ、飲み会にするのではなく、京セラドームを借り切って野球大会を開いたり、豚の丸焼きパーティーをするなど、嗜好を凝らしています。そうして私と業者さんとの信頼関係ばかりでなく、スタッフと業者さん、あるいは業者さん同士が仲間意識を持ってくれれば、いざというときのリスク管理にもなるのではないでしょうか?

 こうすることで、昼休みの30分なり1時間がMRさんなどとの必要ない面談に奪われることがなくなるので、それが1ヵ月、1年と積み重なれば、大きな自分の時間を生み出すことになるのです。

教育学者の斉藤孝さんが、その著者の中で30歳を過ぎる頃になって時間の価値を感じるようになったと書いていますが、まさに、私自身も歳を重ねるごとに時間の大切さを感じるようになっています。開業し、分院を持ち、MAFを立ち上げる‥‥と自分の役割が多くなればなるほど時間の重みが感じられるようになったのです。どんなに頑張っても一人の人間に与えられた1日の時間は等しく24時間です。であるなら、どうやって有効にその時間を使うかが重要になるのです。ですから、私は家族や親しい友人と過ごす時間は例外として、それ以外に使う時間はその価値を常に意識して行動しています。

 ワーク・ライフ・バランスに悩む皆さんにも、やるべきことに順位を付けて時間の使い方を工夫し、プライスレスの自分や家族のための時間を生み出してほしいと思います。今週出版予定の書籍に、その辺りを詳しく書いていますが、このコラムでもそのポイントを少しずつお伝えしようと考えています。